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「あの、どうして……?」
戸惑いを浮かべれば、諏訪くんがにっこりと笑う。
「ほら、俺が仕事を教えるって言っただろ? 会社で時間が取れないときとかは家でアドバイスできるし、一緒に住んでる方が香月の様子もよくわかる。仕事に慣れたかとか、つらくないか……とかさ」
そういうものなのかなぁ、と心の中でごちる。
「もちろん、家で仕事をさせようとか思ってないし、ブラック並みに働かせるつもりもないよ? でも、会社では俺がずっと見れるわけじゃないからさ」
微妙に納得し切れなかったけれど、これからお世話になる会社の社長であり、私の面倒を見てくれるのは彼だ。私の選択肢はひとつしかなく、素直に承諾した。
「ただ、もしそれまでに香月が俺との同居が無理だと思ったら代替え案を考えるから、そのときは遠慮なく言って」
きっと、諏訪くんなりに気遣ってくれたんだろう。けれど、私は彼との同居を無理だと思う自分自身のことを、まったく想像していなかった。
敦子に会うまでは無理だと思っていたし、ありえない展開だと考えていたはずなのに……。いつの間にか、ここで料理をする自分の姿を思い描いていた。
「香月?」
「えっ……? あ、うん……。わかった」
早くも、諏訪くんの優しさに甘えすぎているのかもしれない。そう思うと申し訳なくなって、一刻も早く仕事を覚えようと意気込んだ。
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