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* * *
(香月は覚えてるんだろうか)
ふたりでお互いの夢の話をしたこと、応援し合ったこと。そして、何度も優しく笑いかけてくれたこと。
あの頃、きっと男子で一番仲がよかったのは俺だった……というよりも俺以外の男子とはほとんど話していなかったが、それでも香月は男子が苦手なままだった。
そんな彼女にとっては、俺との思い出すらいいものではなかったかもしれない。
反して、俺は未だに当時の恋情を綺麗に消せずにいて、あろうことか再会を機にその想いが再び膨れ上がった……なんて、香月に言えるはずがない。
社会人になった彼女は、あの頃よりも深く傷つく出来事があったようで、飲み会の帰りに絡まれていたときにひどく脅えていたから……。
俺ができる限りのツテを使って香月と再会できるように仕向け、彼女の現状を知って同居を言い出した、なんて――あまりにも下心がありすぎて言えるはずがない。
九年の月日を重ねた香月は、相変わらず清らかで可愛く、けれどやっぱりどこか儚げで守りたい、と思わせる。
彼女自身にその自覚がないのは悩ましいが、どうにか言い包めて同居にまで持ち込めたから、あとはじっくり手に入れる方法を考えていけばいい。
どのみち長期戦になることは香月の態度を見れば明らかだし、彼女の男性恐怖症とも向き合っていかなければいけない。
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