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「やっぱり、なかなか募集してるところがないみたい。事務の経験がない上、引っ越しのこともあるから給料面は妥協できないし、とりあえずこの三件だけだった」
「……結構厳しくない? ここは都内から通いにくいし、こっちは給料はいいみたいだけど休暇が少ないし。あと一社は、会社の最寄駅から遠いみたいだよ」
「でも、さすがに選り好みしてられないし、とりあえず全部受けてみるつもり」
この三月まで、私は美容師として働いていた。専門学校を卒業後、五年間務めた職場を辞めたのは、色々あって体調を崩してしまったから。
そこから再就職先を探しているものの、一向に目途が立たず……。追い打ちをかけるように住んでいたアパートの上階が火事になり、それを機に以前から大家さんが検討していたアパートの取り壊しが決まった。
そうして部屋を出るしかなくなったのが、ほんの三週間ほど前のこと。
行く当てがなかった私は、ひとまず同じ区内に住んでいる敦子に『一晩だけ泊めてほしい』とお願いし、彼女はしばらく同居することを提案してくれたのだ。
「私がもうちょっと一緒に住めたらいいんだけど、ここは来月で引き払うし……」
「ううん、今住まわせてもらってるだけで充分だよ。本当にありがとう」
ただ、敦子は来月いっぱいでこの部屋を出て、婚約したばかりの恋人と一緒に住むことが決まっている。
入籍はまだ先だけれど、まずは同棲を始めるのだ。
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