Bloom 4 ぬるま湯に浸かりすぎないように

6/13
前へ
/205ページ
次へ
「そんなに成長してないかな?」 「そういう意味じゃない。全然すれてないってことだよ」 「そんなことないと思うけど……」 彼の目には、どんな風に私が映っているのだろう。 少なくとも、私は高校生の頃のように真っ直ぐじゃなくなったし、美容師だったときは嫌なこともたくさん考えた。口にできなかっただけで、男性スタイリストたちへの恨み辛みでいっぱいだったこともある。 すれていない、なんてことは断じてない。 けれど、諏訪くんがそう思ってくれているのなら、せめて彼の中だけでも綺麗なままでいさせてほしい。おこがましくも、そんなことを願ってしまった。 「香月」 不意に優しい声音で呼ばれて諏訪くんに視線を戻すと、柔和な双眸とぶつかった。 「仕事はゆっくり覚えて。あんまり急がなくていいから」 「でも、それだといつまでも出ていけなくなるし……」 「いいんだ」 きっぱりと言い切る彼は、本当に優しい。優しすぎて困るくらいだ。 あまり甘えてはいけないと思うのに、焦らなくていいんだと思わせてくれることが嬉しくて、諏訪くんを見つめて「ありがとう」と笑みを返す。 彼は困ったようにも見えたけれど、柔らかい笑顔で首を横に振った――。
/205ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8021人が本棚に入れています
本棚に追加