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「そんなに成長してないかな?」
「そういう意味じゃない。全然すれてないってことだよ」
「そんなことないと思うけど……」
彼の目には、どんな風に私が映っているのだろう。
少なくとも、私は高校生の頃のように真っ直ぐじゃなくなったし、美容師だったときは嫌なこともたくさん考えた。口にできなかっただけで、男性スタイリストたちへの恨み辛みでいっぱいだったこともある。
すれていない、なんてことは断じてない。
けれど、諏訪くんがそう思ってくれているのなら、せめて彼の中だけでも綺麗なままでいさせてほしい。おこがましくも、そんなことを願ってしまった。
「香月」
不意に優しい声音で呼ばれて諏訪くんに視線を戻すと、柔和な双眸とぶつかった。
「仕事はゆっくり覚えて。あんまり急がなくていいから」
「でも、それだといつまでも出ていけなくなるし……」
「いいんだ」
きっぱりと言い切る彼は、本当に優しい。優しすぎて困るくらいだ。
あまり甘えてはいけないと思うのに、焦らなくていいんだと思わせてくれることが嬉しくて、諏訪くんを見つめて「ありがとう」と笑みを返す。
彼は困ったようにも見えたけれど、柔らかい笑顔で首を横に振った――。
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