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「ううん、篠原さんは最初から事務や雑務メインで採用されたみたいだし、SEの業務には関わってないよ。篠原さんが正式に秘書になったのは社員が増えた五年目くらいだったって聞いてるけど、必要に迫られて自然とそうなったみたい」
ところが、彼女はそうじゃないみたい。
「でも、私がうちに入ったのは二年前だから詳しいことは知らないのよね」
諏訪くんが同じ大学出身の副社長と会社を立ち上げたのは大学在学中だったことは、数日前に教えてもらった。ふたりで作ったアプリがヒットし、以来ずっとアプリ開発に関わっていると言っていた。
篠原さんがどんな風に採用されたのかはわからないけれど、私が知らない社会人になってからの彼を知っているのは少しだけ羨ましい。
「基本的に三人は重役室で仕事をすることが多いけど、ときどき私たちのいるフロアでも仕事をするから、ふたりのデスクはこっちにもあるの。篠原さんだけはいつも重役室にいるけどね」
窓際に配置されているふたつのデスクだけ、他のものよりも大きく重厚感がある。
「あ、噂をすれば社長だ。今日はこっちで仕事するのかな」
木野さんの視線を追えば、タブレットを片手にした諏訪くんがこちらにやってくるところだった。少し離れた場所から私たちに気づいた彼が、笑みを浮かべる。
なにか言いたげだった気がしたけれど、諏訪くんはすぐに目を逸らした。
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