Bloom 4 ぬるま湯に浸かりすぎないように

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その後も、彼女は丁寧に仕事を教えてくれ、パソコンに不慣れな私に嫌な顔をすることもなかった。おかげで、些細なことでも質問しやすく、疑問はすぐに解決できた。 まだわからないことばかりで不安はあるものの、なんとかやっていけそうだ。 諏訪くんはずっとパソコンに向かっていたけれど、ときおり私を気にかけてくれるような視線を感じたし、彼が傍にいると思うと心強かった。 なにより、仕事をしているときの諏訪くんは、いつにも増してかっこよくて、初恋の人のそんな姿に胸がわずかに高鳴った。 もちろん、浮かれている場合じゃないとすぐさま自身を律したものの、高校生のときとは違う彼の表情を間近で見られるのは嬉しかった。 「今日は初日だし、うちの雰囲気とだいたいの流れだけ体感しておいて。明日からは本格的に仕事を教えていくから、しっかり頑張ってね」 昼休憩に自分のことを話してくれた木野さんは、私よりも三歳上で、結婚を機に旦那さんの仕事の都合で上京し、正社員で募集していたエスユーイノベーションを受けたのだという。気さくな彼女はとても接しやすく、肩の力を抜くことができた。 午後からは電話応対のやり方や、取引先の名前に目を通した。社員が少ない分、取引先については全社員がしっかり把握しておくようにしているのだとか。 初日だから気疲れも大きかった反面、久しぶりに働いているという実感を持てるのが嬉しく、肩身が狭い気分でいた日々から解放されたことにもホッとした。
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