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「あ、じゃあさ、いっそのこと住み込みで働けそうなところにしたら?」
「住み込みかぁ……」
「うん。志乃は絶対に事務がいいわけじゃないんだし、住み込みできるところならひとまず住居の心配はしなくていいでしょ? もしくは社員寮があるところとか」
確かに、社員寮や住み込みが可能な就職先なら、とりあえず住居に関する費用は大きく抑えられる。敷金礼金が不要なら、だいぶラクになる。
火事のときにスプリンクラーが作動し、家具や家電の大半が壊れたために荷物は少ないし、そうすれば引っ越し費用はほとんどいらないだろう。
貯金はあまり多くないため、先立つものが安定しない中で迂闊に資金をかけたくないというのはある。
埼玉県にある実家には、昨年結婚した兄夫婦が同居していてもうすぐ子どもが生まれるから、頼ることはできない。
最終的にはマンスリーマンションも視野に入れていたものの、それよりは金銭面の心配をしなくて済むはずだし、彼女の案はいいかもしれない。
「とにかく、今はできることから始めればいいと思うよ。もしどうしても無理そうだったら、志乃も私たちと一緒に住んじゃえばいいんだし!」
「なに言ってるの。さすがに結婚間近のふたりの邪魔をする気はないよ」
敦子はあながち冗談のつもりはない気がする。彼女が本気で心配してくれていることはわかっているから、明るく振る舞って見せる。
不安はたくさんあるけれど、とにかく仕事先と新居を早く見つけるしかない――。
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