8027人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺が案内しようとしたら、タケに『あからさまに目をかけることになるのはよくないし、他のスタッフと同じように指導するだけにした方がいい』って止められた。俺の紹介ってことは別に隠す必要はないけど、まぁそれも一理あるなと思ってさ」
相槌を打ちつつ、確かにそうだと思う。
諏訪くんは社長で、私は彼の紹介で入社した。それ自体は隠すことはないと言われているし、現に鵜崎副社長と篠原さんには事前に事情を伝えたとも聞いている。
とはいえ、社長自ら指導するような業務でもないのに諏訪くんに指導係のようなことをしてもらうと、場合によってはいい印象は持たれないかもしれない。
「ふたりには同居の件も伝えてあるし、公私混同しないようにってことでもあるんだと思う。俺、香月にマンツーマンで教えるくらいの気持ちでいたけど、反省したよ」
「おふたりの言うことはもっともだよ。諏訪くんはなにも悪くないし、私が諏訪くんに頼りすぎてるんだよね……。せめて公私混同しないように気をつけるね」
「俺としてはもっと甘えてほしいくらいなんだけどな」
きょとんとすると、彼は「こっちの話だ」と苦笑を零した。
「当初の予定と変わって悪いけど、木野さんは仕事ができるし、親身に教えてくれると思う。でも、俺も香月の力になりたいし、困ったことがあればなんでも相談して」
諏訪くんのこういうストレートなところがすごいな、と思う。彼自身は友達思いなだけなんだろうけれど、掛け値なしに手を差し伸べるなんてなかなかできない。
けれど、だからこそ諏訪くんに甘えすぎないように気をつける必要がある。
彼にこれ以上の迷惑をかけたくないのはもちろん、今でもぬるま湯に浸かるような生活をさせてもらっているのに、このままだとどんどん甘えてしまいそうだから……。
最初のコメントを投稿しよう!