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「話は以上です。引き続き業務に戻ってください」
「承知しました」
頭を下げ、「失礼します」と言い置いてミーティングルームを後にする。廊下に出ると、自然と息を深く吐いてしまっていた。
篠原さんはとても有能で、スケジュール管理の一切を彼女に任せていると、諏訪くんからは聞いている。
諏訪くんがアプリ開発などに集中できるよう、鵜崎副社長が取引先との関係を構築する一方で、篠原さんは社員には預けづらい業務を請け負っているのだとか。
三人には他の社員とはまた違った絆があることは、たった半月しかここで働いていない私の目にも明白で、諏訪くんに頼られている篠原さんが羨ましいとも思う。
私なんて諏訪くんに頼ってもらうどころか彼を頼るばかりで、料理以外はなにもできていないのに……。
(……こんなこと考えてても仕方ないよね。私は仕事を覚えるのが最優先だし、頑張るしかないんだから!)
ただでさえ、私にはなにもない。持たざる者は、少しでも早く周囲に追いつけるように努力するしかないのだ。
「あ、おかえり。篠原さん、なにか言ってた?」
明るい笑顔を見せた木野さんに、首からかけている社員証を見せる。
「新しい社員証をもらいました」
「じゃあ、IDを登録してログインしようか。とりあえず個人IDで処理できる仕事を教えていくけど、わからなければ何度でも説明するからね」
彼女はいつも通り優しくて、さっきの緊迫感とは反する雰囲気にホッとした――。
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