Bloom 5 花は折りたし梢は高し……でもないかも?

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* * * 七月が終わる頃、ようやく仕事にも慣れてきた。 まだまだ戦力とは言えないものの、少しずつ覚えたことを業務で活かせるようになっている。最初は疲労感に襲われていたけれど、最近は前ほどつらくはない。 もっとも、美容師時代よりもずっと勤務時間は短く、休憩だって毎日必ず決まった時間に取れるし、人間関係も思っていたよりもなんとかなっている。という状況を見れば、生活環境がグッとよくなっているのが大きな理由に違いないけれど。 それもこれも、すべて諏訪くんのおかげだ。 とはいえ、このまま今の生活を続けていれば、私は本当にダメ人間になりそうで不安で仕方がない。なんて思う反面、彼と過ごす時間はいつも穏やかで楽しくて、ついもう少し……なんて思うこともあるのだけれど。 「香月、危ないよ」 ぼんやりとしていた私は、左腕を掴まれて足を止める。 「信号、赤だから」 「あっ、ごめんね……」 数歩先の横断歩道の信号はまだ青になっていなかった。 「さっきから何度もボーッとしてるけど、考え事? 悩みがあるなら相談に乗るよ」 「ううん、そうじゃなくて……」 諏訪くんとのことを考えて心ここにあらずだった……なんて、目の前の彼にはなんとなく言いづらくて笑顔でごまかす。 直後、諏訪くんがハッとしたように私の腕から手を離した。
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