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「ごめん、つい……」
平気だと言うように、咄嗟に首をブンブンと横に振る。申し訳なさそうにしていた彼は、わずかに安堵を浮かべて微笑んだ。
信号が変わり、諏訪くんに目配せをされて歩き出す。横断歩道を渡り終えると、彼は通行人の邪魔にならないように道の端で立ち止まった。
「どうしたの?」
「あのさ、香月」
神妙な雰囲気になった諏訪くんは、私をじっと見つめている。
「あ、なにか買い忘れちゃった?」
土曜日の夕食後、アイスを求めて近所のコンビニに繰り出した帰り道。そんな自分たちの状況から予想できた疑問を呈せば、彼が小さく笑ってかぶりを振った。
「答えたくなかったら、言わなくていいんだけど……。さっきみたいに俺が腕を掴んだりするのは平気なのか?」
そういえば、と思う。
会社ではまだ男性社員と接するのは緊張するし、不意に体が近づいたときにはつい身構えてしまう。
一方で、家で過ごしているときに諏訪くんと手が触れたり体がぶつかったりしても、意外にも体が強張るようなことはない。彼と距離が近いことにドキドキしていても、不快感や嫌悪感といった意味で動悸がすることも、不安を感じたこともなかった。
「そう、かも……。いざ考えてみると不思議だけど、平気なのは諏訪くんが相手のときだけなんだよね」
「香月、それって――」
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