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「やっぱり、諏訪くんのことはすごく信頼してるからかな。お世話になりっぱなしで申し訳ないけど、昔も今もすごく親切にしてくれるし、感謝しかないよ」
にこにこと笑う私に、彼が唇を引き攣らせそうな顔でため息をついた。
「あっ、ごめんね! こんなこと言われても呆れちゃうよね……」
「いや、別に呆れはしないけど……」
諏訪くんの表情は複雑そうだ。呆れていなくても、それに近い感情を抱いたのは間違いないのだろう。
快適な暮らしに慣れ始め、すっかり緊張も和らいでいる今の私は、きっと自分で思うよりもずっと彼に対して図々しくなっているのかもしれない。
だから、きっとこんな顔をさせてしまったのだ。
「なぁ、香月。家まで手を繋いで帰らないか?」
自身の不甲斐なさにため息をつきかけたとき、突拍子もない提案を寄越されて目を剥いた。一瞬、聞き間違いかと思ったほどだ。
その内容に戸惑い、理由を訊いていいのかわからなくて口が開けない。けれど、諏訪くんの双眸は真剣で、決して冗談じゃないことだけは伝わってきた。
「えっと……」
「ああ、言い方が悪かったな。香月が俺に触れられるのが平気なら、スキンシップを増やしていけば異性に対する恐怖心が少しでも和らぐんじゃないかなと思ったんだ」
他意はないよ、と微笑まれて、反射で同意するように二度頷く。
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