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「あ、あの……諏訪くん?」
「ああ、ごめん。行こうか。無理そうになったら、我慢しないですぐに教えて」
小さな子に教えるような口調からは、いつもの彼らしい思いやりが感じ取れた。
さっきの表情の意味を尋ねる間もなく、諏訪くんに合わせて一歩ずつ足を進める。
軽い力で繋がっているだけの小指に触れるのは、自分のものとは違う体温と節くれだった感触。太さも硬さも、女性の指とは全然違う。
それは初めての感覚で、どうすればいいのかわからない。ドキドキ、ソワソワ……そんな感覚を緊張でいっぱいの心が処理できずに持て余してしまう。
鼓動がうるさいのは、きっと初めて知った男性の体温と感触に戸惑っているから。
これまで異性から不条理に触れられることはあっても、自分から触れたことはほとんどない。勝手に触られるときはいつも恐怖心が強くて、こんな感覚をゆっくりと反芻する暇なんてなかった。
ところが、今は違う。
諏訪くんという男性の体温や肌を、直に感じている。
彼の体の一部に触れている小指から、まるで血液が煮えるように肌が熱くなっていく。徒歩二分ほどの距離しかない帰路が長く思えるほどにドキドキして、それなのに不安も嫌悪感も芽生えてこない。
なにもかもが初めてで、なにもかもに戸惑っていた――。
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