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「まずは指先からいってみようか」
ソファに並んで座り、向かい合っている。そんな諏訪くんと私の間には、いつものような距離はない。あるのは、私の緊張だけ。
差し出された彼の左手を前に、息を大きく吐く。
コンビニから帰宅後、交代でお風呂を済ませたのが約三十分前のこと。それから、ふたりで仲良くアイスを食べた。
百円程度のアイスを選んだ私より、諏訪くんが手にしたのはもっと安価なもの。ソーダ味や梨味が人気の棒付きアイスは、誰もが知っているロングセラー商品だ。
大人の男性として洗練された社長には、驚くほど似合わない。ただ、『高校時代、夏の部活帰りによく買い食いした』と笑う彼には、なんだか似合ってしまう。
同じ人なのに変な感じだけれど、そんな風に思うのだ。
もっと言えば、会社にいるときの諏訪くんは手の届かない遠い人なのに、家にいるときの彼はあの頃の空気を思い出させるせいか壁を感じさせない。
ぼんやりとそんなことを考えていた私がバニラアイスを食べ終えたとき、諏訪くんが思いついたように言ったのだ。
さっきの続きをしてみないか、と――。
その提案に、目を真ん丸にした私だったけれど。要するに彼は、私のリハビリに付き合ってくれるつもりなんだろう。
最初はもちろん、色々な思考が駆け巡って躊躇した。
一方で、マンションの前に着くまで小指を繋げた今の勢いならもう少し頑張れそうな気がしたし、相手が諏訪くんなら他の異性よりもずっと安心感はある。
だから、ドキドキしていたのは緊張のせいだと結論付けたばかりだったのもあり、彼に頷いて見せたのだ。
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