Bloom 5 花は折りたし梢は高し……でもないかも?

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「じゃあ、もう一歩進もうか」 「もう一歩って?」 「……香月、手はこのままだよ? 今度は俺が香月に触れるから」 驚く間もなく、骨張った手が伸びてくる。思考が追いつくよりも先に、諏訪くんの右手が私の頬にそっと触れた。 ゴツゴツした、男性らしい手の感触。握っている手で感じるよりもずっと近い彼の気配に、無意識に息を呑む。 骨張った手から伝わる体温がやけに熱い。 諏訪くんと私、どちらの熱かわからないけれど。鼓動が頭に響くほどうるさくて、彼に聞こえていないかと心配になった。 さらには、すり……と優しく撫でられて、心臓が大きく跳ね上がった。 真っ直ぐに見つめてくる瞳の強さに囚われて、息が上手くできない。不安や恐怖はないとわかるのに、胸を占める感覚の正体がわからない。 それでも、なんとか口を開いた。 「あ、の……諏訪くん……?」 緊張でかすれそうになった声が、静かなリビングに落ちていく。頼りげのない問いかけに、諏訪くんがふっと瞳をたわませた。 「怖くない?」 その質問の答えは、YESだ。怖くはないし、それは間違いない。 「う、うん……」 素直に頷いたものの、持て余したままの感覚をどう説明すればいいのか思いつかなくて、声にも顔にもためらいが顕著に出てしまった。 「じゃあ、あと三十秒だけこのままでいよう」 ところが、決定事項のように言われてしまうと、彼の意図は察せないままうっかり小さく頷いていた。
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