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「緊張したっていうか……でも、諏訪くんの手が離れると、なんとも言えない気持ちになって」
「手が離れたら安心した?」
「……そうじゃないと思う」
安心なんてしていない。それなら、諏訪くんの体温を感じていたときの方が、そういう感覚には近かった。
「じゃあ、寂しかった、とか?」
思いもしなかった言葉に、瞬きを繰り返してしまう。自分では思い至ることはなかったものだけれど、言われてみれば遠からず……という感じがあった。
「それはないか。ごめん、忘れて」
「ううん、そうかも! 寂しいとは違うかもしれないけど、心がぽっかりする感じがあったから、意外とそういう感覚に近かったのかもしれない」
答え合わせをするがごとく、うんうんと頷く。微妙に違う気はしたものの、彼の言うことがなんとなく腑に落ちた。
ふと、唐突になにも言わなくなった諏訪くんを見ると、彼は呆気に取られたように静止していた。
「あの……私、なにか変なこと言っちゃったかな?」
「あ、いや……。ごめん、ちょっと考え事してた」
小首を傾げた私に向けられたのは、いつもと変わらない諏訪くんの笑顔だった。
「これから毎日、今日みたいに練習しないか? ちょっとずつ触れ合う場所や時間を増やしていくんだ」
彼の提案は、今夜で一番思いもよらないこと。
「もちろん、香月が嫌がることはしないし、あくまで香月の無理のない範囲でステップアップしていって、徐々に異性への抵抗感を減らすっていうか……」
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