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社員寮と称した同居に始まり、仕事の面倒。そして、今回のこと。
再会してからずっと、諏訪くんは私の予想を遥かに超えたことばかり提示してくるけれど、彼が口にするのはいつだってどれも私のためだ。
「いきなりは無理だろうけど、こうすることで異性に対する苦手意識が和らげばいいなと思ってさ。どうかな?」
諏訪くんは私の人生で唯一の男友達ではあるものの、きっと彼にとっての私は友人と言えるほど親しくはなかった。
それなのに、こんなに親切にしてくれる諏訪くんは、本当にいい人だ。
「でも、そんなことまでしてもらうわけには……」
とはいえ、いい加減に甘えすぎているのも自覚している。今さらかもしれないけれど、彼にはおんぶに抱っこで申し訳なかった。
「そんなことは気にしなくていいよ。ただ、香月は俺に対しては抵抗感があんまりないみたいだし、それならいい練習台になれるかなって思うんだ」
確かに、会社の男性スタッフに恐怖心を抱くまではなくても、まったく不安や抵抗感がないわけじゃないし、無意識下で声をかけられると必要以上に驚くこともある。
(これでちょっとすつでも慣れていけば、もっとスムーズにコミュニケーションが取れるようになるかな……)
「じゃあ、お願いしてもいい?」
「もちろん」
諏訪くんがにっこりと笑う。裏のなさそうな笑顔が眩しくて、自身の不甲斐なさが浮き彫りになる気がした。
それでも、これが彼の家を出るための一歩に繋がると思えば、おちおち躊躇している方がもったいない。私はもっと努力しなければいけないのだから。
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