Bloom 6 堰かれて募る恋の情……なんて言うけれど

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「なに言ってるの。諏訪くんは今や社長だし、きっと引く手数多だもん。いくら一緒に住んでるからって、私なんて眼中にないよ」 「そんなのわからないでしょ」 「そもそも私だよ? 恋愛どころか男性が苦手なのに、そういうことが起こるわけないじゃない。それに、こういうのって親切にしてくれてる諏訪くんに失礼だよ」 「親切ねぇ」 含みのある言い方をした彼女に、「親切だもん」と念押しをするように頷く。 「でも、志乃は諏訪くんとなら一緒に住めてるわけでしょ。それって、やっぱり特別だからじゃない?」 「確かに、平気なのは諏訪くんだけだよ。でも、それは諏訪くんのおかげなの」 カフェオレを飲む敦子に、視線だけで促される。 「諏訪くんって本当に優しいんだ。私を気遣ってちゃんと距離を保ってくれるし、会社では家みたいに話せないけど、公私ともにすごく心配してくれてるの」 ワッフルを口に運ぶ彼女の顔は、心なしか呆れているようにも見える。 「ご飯もいつも喜んでくれるし、最近は私のリハビリまでしてくれてるんだよ!」 「リハビリ?」 その単語に引っかかったらしく、敦子の眉が小さく寄せられる。 「うん。異性に慣れるように、諏訪くんが練習台になってくれてるの」 「……それって具体的にどんなことしてるの?」 「えっと……手を握ったり、諏訪くんが私の顔や頭に触れたり……」 諏訪くんとのリハビリが始まって、約二週間。 最初は五分程度から挑戦し、今では十分ほど手を握りながら彼に触れられている。その成果なのか、肩や手に触れられることへの抵抗感は弱まり、会社で男性社員に肩を叩かれても委縮しなくなった。
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