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「それだけ?」
じっと見つめられてたじろぐ。
実は、頬を中心に撫でる骨張った手のひらは、気まぐれのように頭を撫でることもあるし、耳をくすぐってきたこともある。
戸惑い慌てる私に、諏訪くんは決まって『練習だから緊張しないで』と言いつつも、『無理ならちゃんと教えて』と優しく微笑みかけてくれる。
そのおかげで怖くはないけれど、少しだけ、ほんの少しだけ……鼓動が跳ねることが増え、気づけばよくドキドキするようになっていた。
もっとも、それはただ緊張が大きくなっているだけに違いない。
そう思う反面、彼がときおり見せる意味深な視線に息ができなくなるほど心が捕らわれることもあって、最近は以前とは違う意味で戸惑うことがあるのだけれど。
「志乃? 聞いてる?」
「あ、うん……! リハビリはまだ始めたばかりだけど、これからどんどんステップアップしていく予定で……」
「ふぅん……。リハビリ、ねぇ」
「なに?」
「ううん、別に。でもまぁ、私に話したこと以上のことはしてるんでしょ?」
「……っ、変な言い方しないで!」
「変な言い方なんてしてないよ。それに、あながち外れてないんでしょ?」
相変わらず鋭い敦子に、こほんと咳払いをする。
「私はもちろん、諏訪くんにだって他意はないよ。あんなに優しくて親切な男の人、私の周りにはいなかったし、本当に感謝してるの。だから、一刻も早く普通に異性と接することができるようになりたいし、引っ越しもしたいの」
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