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「……諏訪くんがそれ聞いたら泣くんじゃない」
彼女の言葉に小首を傾げる。
いくら優しい諏訪くんだって、さすがに泣くほど喜んだりはしないだろう。ただ、泣かなくても彼が喜んでくれるのは確かなはず。
「そこまで喜ぶってことはないだろうけど、お祝いとかしてくれそうだなぁ」
そう考えて苦笑が漏れる。
諏訪くんのことだ。私が遠慮しても、彼はきっとお祝いをしてくれるだろう。
「諏訪くんって意外と気が長いんだね」
「そうかも。会社でも家でも、怒ってるところは見たことがないし」
大きく頷けば、敦子が肩を竦めるようにして苦笑いで「そうだね」と相槌を打ったけれど。なんとなく、彼女の態度に含みがあった気がする。
「それよりさ、諏訪くんに喜んでほしいなら、自分からも触れてみれば?」
ところが、そこに意識を割くよりも早く突飛な提案が寄越され、目を丸くした。
「諏訪くんを見つめながら、ちょっと頬に手を添えてみるとか。ほら、リハビリの成果が出てるってわかれば、諏訪くんだって協力してる甲斐があるって思うんじゃない?」
敦子の話は予想外のことではあるものの、一理あると思えたのも事実。
私から触れるのは不安だった。ただ、相手が諏訪くんなら頑張れる気もする。
「もちろん無理する必要はないけど、諏訪くんは喜ぶと思うよ」
「うん……。できそうならやってみる」
彼女の提案を実行してみようと考えたのは、彼に成果が出ていることを身を持って伝えたかったから。だいたい、これくらいできなければ先が思いやられる。
ワッフルを食べ終える頃には、私の意志は固まっていた。
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