Bloom 6 堰かれて募る恋の情……なんて言うけれど

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「寿司だとワインじゃないよな。ビールか焼酎か……あ、酎ハイもあったな」 希望を訊かれて酎ハイをお願いすると、諏訪くんが冷蔵庫からビールと酎ハイを出してきてくれた。どうやら彼は、運動したことによって飲みたくなったみたいだ。 緊張感がなかなか消えない私も、アルコールの力を借りることにする。軽く飲み始めたところでお寿司が届き、その豪華さに目を見開いた。 「これ、特上なんじゃ……」 頷いてあっけらかんと笑う諏訪くんは、「たまにはいいだろ」なんて言う。彼にお金を受け取ってもらえなかった私は、戸惑いつつも丁重にお礼を伝えた。 ふたりで「いただきます」と声と手を合わせ、お寿司を堪能する。イクラは大粒で甘く、大トロは生肉のような食べ応えで、ウニは舌に感触が残るほど濃厚だった。 「どれも人生で一番おいしい……!」 「それはよかった。じゃあ、また頼もう」 簡単に甘やかしてくれる諏訪くんといたら、ダメ人間になるのはやっぱり時間の問題だ。自分の将来が不安になって、早く彼のもとを離れなければいけないと思う。 それなのに、今の生活を失う未来を想像するだけで、寂しさに似たものを抱いてしまった。上手く言えないけれど、心が寂寥感のようなものを感じたのだ。 (優しくしてくれるからって甘えすぎて、贅沢な人間になっちゃってるんだ……) そんな自分自身が恥ずかしくて、食後にソファに移動した諏訪くんを追うように彼の隣に腰掛けた。
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