Bloom 6 堰かれて募る恋の情……なんて言うけれど

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「今夜はもう練習する?」 「うん……」 ためらいと緊張を隠して頷けば、諏訪くんが柔和な笑みを浮かべる。 差し出された左手を右手で握るのは、随分とスムーズにできるようになった。最初はなかなか手に力を入れられなかった私に、彼が根気よく付き合ってくれたおかげだ。 だからこそ、諏訪くんに成長したところを見てほしい。 そんな決意とともに顔を上げれば、優しい双眸とばっちり目が合った。 「香月?」 普段より緊張感が大きい私の異変に気づいたのか、彼の表情に心配の色が浮かぶ。 それに構わず、私は左手をそっと伸ばし、おずおずと諏訪くんの頬に触れた。 「え……っ」 刹那、彼の顔が意表を突かれたように固まり、沈黙に包まれた。 初めて触った諏訪くんの頬は滑らかで、骨張った手とはまた違った感触が伝わってくる。ただ、彼の体温はしっかりと感じ取れる。 (でも……これって、ちょっと……) 思っていたよりもずっと、恥ずかしい。勢いに任せればなんとかなるかと考えていたけれど、交わったままの視線すら動かせないほど緊張している。 熱いのは、私の手か諏訪くんの体温か……。どちらの熱かわからない。 鼓動は早鐘を打って落ち着きを失くし、このままでは平静を装えなくなるのも時間の問題だ。それなのに、引き際を見つけられない。 そのせいで、手を握り合って私が彼の頬に触れた形で動けなくなり、なんだかおかしな状態で静止していた。
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