Bloom 6 堰かれて募る恋の情……なんて言うけれど

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「すぐに謝るのは香月の悪い癖だよ。なにも悪くないのに謝る必要はないんだ」 静かに、けれどしっかりとした口調で紡がれた言葉は、私の自己肯定感の低さを叱責されているようだった。 今に限って言えば、私に非がなかったと言い切る自信はない。 一方で、二言目には謝罪を口にしてしまうのが癖づいている自覚もある。それが美容師時代のセクハラとパワハラに遭った経験からだ……ということも。 「これまでにつらい思いをしてきたからこそ、そういう態度になってしまうんだろうなとは思う。香月にとって自衛のためだったのかもしれないし、それ自体がダメなことだとは言わない。自分を守るのは大切なことだから」 厳しさを孕ませた声音なのに、どこか温かくて優しい。そう思うのは、諏訪くんがどれだけ優しい人なのかを知っているから。 私は、彼に返し切れないほどたくさんの優しさをもらっている。 「でも、自分が悪くないときにまで謝罪する必要はないんだ」 これまでに助けてもらってきたからこそ、諏訪くんの言葉には私への思いやりが詰まっていることはすぐにわかった。 「弱みに付け込むような奴は、香月みたいにすぐに謝る相手を前にすると簡単につけ上がる。だから、今みたいに謝るのが癖になってるなら直した方がいい」
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