Bloom 6 堰かれて募る恋の情……なんて言うけれど

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笑みを浮かべた諏訪くんに、胸の奥が甘やかな音を立てる。この感覚にも覚えがあって、苦笑が漏れそうになる。 緊張でドキドキしていると思っていたのは、心が恋情を訴えていた合図だったのだ。 けれど、本心を自覚したからといって、なにが変わるということもない。 私が異性に苦手意識があるのは変わらないし、前ほど体が強張ることがなくなったといっても、あくまで彼と職場の男性スタッフに対してだけだ。 自ら触れられるのは諏訪くんだけだし、それだって練習と称していたからできていただけかもしれない。彼への想いを認識した今、次の練習のときには緊張感と恋心を意識するあまり、振出しに戻る可能性すらある気がした。 とにもかくにも、こんな私が誰かと恋愛する想像なんてできないし、諏訪くんだって付き合うなら私みたいな厄介な女よりも普通の女性を選ぶだろう。 いくら親身に面倒を見てもらっていても、そこまで自惚れるほど浅はかじゃない。 彼の恋人になる人はきっと、篠原さんのような美人で聡明な人。誰が見てもお似合いだと思ってしまうような、そういう女性に決まっている。 (自覚した途端、失恋しちゃうなんて……) 「素直な性格や、そうやってすぐにお礼を言えるのは、香月のいいところだな」 現実は苦しいけれど、諏訪くんの言葉が私を少しだけ救ってくれた。だから、彼の前では切なさを隠して、精一杯笑って見せた――。
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