信子は気になって仕方が無い

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信子は気になって仕方が無い

「強迫性障害」をご存知でしょうか。 家の鍵を閉めたか、コンロの火は消したか、水道の蛇口は閉めたか。 不安にかられて家までわざわざ戻ってしまう症状の事をいう。 信子にそういう症状は無いが、それでも信子は自分の事を 強迫性障害ではないかと思っていた。 それくらい信子は「気にしすぎる」性格だった。 気になる事があると夜も眠れない、何も手につかない。 やっかいな事に何が気になるのか、その基準やセンサーを 信子自身が理解していない事もまた信子を悩ませていた。 信子にも昔、いい人がいた。信子は彼が好きだったし結婚するつもりだった。 容姿がそれほど良い訳では無かったが一緒にいて落ち着いた。 3年付き合っても信子は彼に対して「気になる事」が無かった。 少しはあったかも知れないが彼から直接説明してもらえたら納得して その後は気にはならなかった。 彼が信子の事を理解してくれていて、些細な事でも丁寧に説明する彼の姿勢が 良かったのだろう。 だけど日本人はお金の話をする事に抵抗がある。 彼もまた何でも説明してくれる人だったが年収の話だけはしたくなかった。 あまり多くない事もコンプレックスだった。 だけど信子は年収が気になってしまった。 別に信子はお金に執着する性格ではない、ただ二人がこれから生きていく為に こと細かく収入を把握したかっただけだった。 しかし信子は金に汚い女と誤解され、彼の家族から結婚の反対を受けてしまい なかなか先に進められないうちに彼は他の女性と結婚してしまった。 この出来事は信子を激しく落胆させたし、信子も気にし過ぎる自分を 本気で直したいと思った。 だけど膨大な情報量を誇るインターネットの世界にも病院にも 信子を治せる方法は無かった。 インターネットの世界にはありきたりな事しか書いてないし 病院に行っても「正常です」と言われてしまった。 それでも方々を回ったが、信子の求める答えは見つからなかった。 そして気づけば信子も45歳、独身、これからの人生に対して 不安は増すばかりとなっていた。
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