食事中の方はお控えください

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食事中の方はお控えください

うーむ・・・振り出しに戻る。いや振り出しより後ろに戻される。 そんなところかな。 ストロングなロング缶を一気に飲み干すのが勿体なくて ちびちび飲みながら信子は黄昏る。 和代はまたどこにも行かなくなったし、信子との交流は断絶している。 頼れる人間もまたいなくなった。 飲んだくれる信子の背後で寝たきりのまま、尿をオムツの中に垂れ流す。 オムツの中の尿吸収パットの容量を超えて ズボンやシーツを濡らしても、和代はなんのリアクションも起こさない。 和代は排尿の垂れ流しは何とか耐えれるが、やはり排便だけは 垂れ流す事は出来ない。さすがにその境地には達していない。 だから和代は食べなくなった。 食べると信子しかいない時間に便意が来てしまった時、信子と 同じ空間で排便をしたまま放置されてしまう。 それは屈辱と呼べるものだ。 介護ヘルパーからのメモに 「和代様は最近、食事量が低下しています。尋ねてもお答えになられませんし、一度病院に受診してみてはいかがでしょうか」 と書いてある。 信子も和代が食べない理由が分からない。 「どうしたの?調子悪い?ご飯食べないのヘルパーさんが心配してるよ」 「・・・・・・・」 信子は一応、和代に声を掛けるが返事は無い。 信子も予想通りの反応に何も思わない。 信子はまたテーブルに戻るとちびちびと飲みだした。 もちろん病院に連れて行く気なんてさらさら無い。 「親不孝な娘を持ったね、でもどうしようも無いよ。私のこれからの人生だってどうしようもないんだもん」 誰に行ったわけでも無い、それでも声に出してみた。 次の日も、次の日も和代は食べなくなった。 それでも信子は特に何かをする訳では無かった。 そして、さらに次の日、信子は会社から戻ると家の前に誰かがいる。 ヘルパーでは無い。 家の前にいる誰かは信子と目が合うと、近づいてきた。 信子と同じ齢くらいの女性と、これも信子と同じ齢くらいの男性と 二人組だった。 「あの、佐々木信子様でお間違えないですか」 「誰ですか」 「失礼しました、私は市の高齢福祉課の豊田と申します」 そう男性が自己紹介すると 「私は工藤と申します」 と女性も名乗った。 「高齢福祉課?」 「はい、本日はお母様の佐々木和代様の件で伺いたい事がありまして、訪問させていただきました。お仕事終わりでしょうか?お疲れの所申し訳ございませんがお時間いただけませんでしょうか」 何か嫌な予感がする・・・ 「いやちょっと疲れてるんで今度にしてもらえませんか」 「申し訳ありません、お時間は取らせませんのでお願いします」 相手も引き下がらない。 「いや、だから無理なんです」 信子は振り切ろうとしたが 「それでは路上ですいませんが話させて頂きます、和代様に虐待の疑いがあり調査に参りました。ここでする話ではありませんし、家の中でお話をしたいのですが」 その言葉に信子はフリーズする。 虐待?私が?なんで? 殴った事なんか一度もない。 そりゃきつい事を言った事はあるけど大声出して威圧した事も無い。 テレビで観るやつ?逮捕されるの?私が?私は何もしていない。 冷汗が頬をつたい、鼓動が早くなる。 思考停止した信子は豊田と工藤を家にあげた。 ヘルパーがオムツ交換を済ませて体を拭いたばかりなので 和代は小奇麗になっている。 豊田と工藤は家の中を見渡すと、和代に質問を始めた。 終わりだ、母は私の事を憎んでいる。 あれこれ大げさに言うだろう。 信子が近くにいると和代が本音で話せないかもしれないとの事で 信子は別室で待機させられている。 信子は一人、肩を落とし足元を見つめたまま、豊田と工藤が戻ってくるのを待つしかなかった。
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