居宅ケアマネはいずこ①

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居宅ケアマネはいずこ①

高齢福祉課の豊田と工藤は、和代から聞き取りが終わると 信子のもとに戻って来た。 「母は・・・なんて言ってたんですか」 「それは、後にしましょう。今後の事についてはまた後日連絡させていただきます」 「後日って何ですか、私の話は聞かないのですか。母のいう事だけが受け入れられるのですか」 「お母様、和代様は認知症という事もありますし、和代様本人が話されたことは参考程度にしかすぎません」 「そうなんですか」 「それよりも何度も排尿がしみ込んで、洗濯をしても跡が残っているシーツ。和代様のベッド周辺の衛生状況、その他関係者の証言などをもとに調査は行っております」 「関係者・・・?関係者って誰ですか、ヘルパー⁉」 「それを申し上げる事は出来ません」 「この家に入ってきているのヘルパーしかいないんだし、それしかないじゃないですか。私は虐待なんてしていないのにデマを言うなんて!!」 「立場上、通報者を教える事は出来ません。しかし、仮にヘルパーが通報者だとしてもヘルパーを恨むのはお門違いです。ヘルパーは利用者様の保護を法律で義務づけられています、ここ最近の朝の和代様のオムツの中は尿と便で溢れている事が多かったそうですね」 「忘れる事が多かっただけです、最近仕事が大変だから・・・」 「最近の和代様の臀部(おしり)の状態をご存知ですか」 「いえ・・・」 「尿と便を長時間オムツ内にため込んでいた事により、皮膚疾患が発生しています。赤紫に変色していますし、ただれも見られます。もう長い事和代様のオムツ交換をされていないでしょう、ここまで状態が悪化された事を知らなかったなんて」 「・・・・・・」 「お認めになったとの事で話を続けます。介護が必要とされている方に適切な対応を取らないで放置する事もネグレクトという虐待になります。このままでは和代様はさらに状態が悪化し命の危険も出てくる可能性があるという事で、我々がやってまいりました」 「・・・・・・」 「和代様の証言を鵜呑みにしている訳ではありませんが、和代様本人もこれだけの状態になりながら貴方に助けを求めないという事は、信頼関係もそれほど築かれていないと察します」 「・・・・・・」 「近日中に連絡します、それまで夜間のオムツ交換を行うか、夜間もオムツ交換をしてくれるサービスを利用して下さい」 「・・・私は・・・その、逮捕されるのですか」 「虐待は犯罪ですが、ネグレクトで警察が動き出すという事は滅多にありません。それに今晩からきちんとして下されば、ほとんどその可能性は無いと思いますよ」 豊田と工藤は帰って行った。
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