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居宅ケアマネはいずこ②
携帯のアラームで目が覚める、現在・・・夜中の2時。
和代は信子に介助を求めないので、自分で起きる必要がある。
鈍重な脳内に血液を送って無理やり覚醒する。
和代のオムツ交換を放置してどれくらいの日数が経っただろう。
前回、どんな風にやったか全く覚えていない。
それでもやらなければならない。
役所の指示にさえしたがっていれば逮捕される事はないらしい。
いやだ、親の虐待で捕まるなんて。
ましてやニュースにでもなったら一生の恥だ。
信子が近づいても、和代は気づかずに就寝している。
便と尿臭がする。
臭くてたまらないのに、寝ていられるなんて和代はすっかり
変わってしまったんだ、と信子の胸中は複雑な気持ちになる。
いやいや、感傷に浸っている場合では無い、信子は
「お母さん、おむつ変えるよ」と
眠ったままの和代のズボンを降ろそうとした。
和代は目を覚ますと、瞬時に状況を理解し
「いやあ!!何するの!!」
深夜の住宅街に響き渡るくらいに大声をあげた。
「ちょっ、お母さん!うるさい、近所迷惑でしょ!!」
抵抗する和代のズボンを何とか降ろそうとするが
和代は左手一本でズボンを掴んで離さない。
久しぶりなうえに、介護技術が素人の信子にとって
片手でも抵抗される相手のオムツ交換は困難だ。
おまけに深夜だというのに大声を出され続けるのもプレッシャーになる。
ただでさえ虐待だと役所が動いているのに
「夜中に悲鳴が聞こえてきますよ」なんて
近所の人間が証言したら、私は本当に逮捕されるかもしれない。
そんな事が信子の脳内をよぎる。
「お母さん、黙ってよ!!静かにして!!」
「いやーーーー!!」
オムツ交換をしないと逮捕される!
大声を出されても逮捕される!
逮捕される!逮捕される!逮捕される!逮捕される!逮捕される!・・・
「うわあーーーーーー」
叫びながら信子は力一杯の平手打ちを和代に浴びせた。
一瞬、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした後、和代は
「うわーん」と泣き出す。
鳴き声と大声が響き渡り、信子の脳内パニックは加速する。
「うるさい!黙れ!!黙れ!!!黙ってよ!!!!」
和代の顔面に何度も平手打ちを繰り返す。
しばらくして、和代はすっかり脱力してただ泣き続けた。
信子は抵抗しなくなった和代のオムツ交換をすると
放心状態になって自分の布団に戻った。
絶望と興奮で眠れない。
ついに手をあげてしまった、私でも分かる、これは完全な虐待だ。
私は終わってしまった。
眠れないまま夜が明け、改めて和代の顔を見ると
ところどころ赤くなって腫れあがっている。
今日も朝8時になれば、いつもの介護ヘルパーがやってくる。
和代を見て驚くだろう。
だけど、もうどう見繕う事も誤魔化す事も出来ない。
出社しなければいけない時刻が近づいてくる。
だけど、今更会社に行ったところでどうなるだろう。
どうせ私は虐待で捕まって、会社もクビになる、ニュースに載るのかな。
もういいや、疲れた。
されるがままに受け入れよう。
一睡もできず憔悴した顔を洗う事もせず、朝のヘルパーが
やってくるまで、信子はただ膝を抱えていた。
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