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植物の様な日々
本当に最近は激動の日々だった。
両親はそろって異なる認知症になるし、施設に入るし
私は母を殴って行政から絶縁状態にさせられるし
元カレと火遊びするし、ヤられるし。
もう、いいよ。
改めて思った。
刺激的な日々など結構!
だらだらと緩やかな下降線を辿って死なせてくれ。
目の前の書類をデータとして打ち込む単調な仕事。
退屈だが、淡々とこなして定時になったら帰る。
テレビを観ながら酒を飲んで、決まった時間に寝て
決まった時間に起きてまた同じ事を繰り返す。
あの日から、悦男は出社していない。
しばらくは気にしていなかった。
実際、目の前に現れたらどんな心境になるのか分からなかったが
姿が見えない時は信子は意識する事無く過ごしていた。
だが信子の気にしすぎセンサーが突如作動する。
せっかく平穏な日々が帰って来たのに悦男が、出社してきたら
また面倒な事になりそうだ。
それに今は落ち着きを取り戻しているが、悦男を見たらまた
私は心が乱れてしまうかもしれない。
信子はいても立ってもいられず、悦男の部署を訪ねた。
悦男と同じ部署の同僚が信子の質問に答えてくれた。
無断欠勤が続いているらしい、連絡もつかない。
そろそろ様子を見に行こうかと思っているが
なかなか都合がつかない、といったところらしい。
「私が行ってきましょうか」
「ええ!いいんですか?知り合いなんですか?」
「実は、母の介護の件でお世話になったんです。お礼をしなければならないと思っていた矢先に連絡がとれず私も困っていたので」
「そうですか、そういう事ならお願いいたします」
こうして
「悦男の住所」「悦男の家を訪ねる口実」の2つを手に入れた信子は
悦男の家に向かった。
実際に会ったら悦男はどんな反応するのか?
どんな事を話せばいいのか?
どこが落としどころなのか?
だいたいあんな目にあわされた男の家に一人でのこのこ行く私も
どうかしている。
思考がまとまらないまま歩を進めていると
信子はコンビニから出てくる悦男の姿を見つけた。
悦男は信子に気づいていない。
信子は堂々と悦男の後ろを着いていくが、悦男は全く気付かなかった。
そして悦男がマンションのドアに鍵を差し込んだ瞬間を
見計らって
「鈴木さん」
信子はにっこりと微笑んで悦男を呼んだ。
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