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やっと死について考える編
信子は久々に晴れ晴れとした気持ちで目覚めた。
しかしせっかく晴れ晴れとした気持ちで通勤しようと
身支度を整えていたところにインターホンが鳴る。
こんな朝早くに何?嫌な予感しかしない。
やり過ごしたいが、安アパートのインターホンにカメラなんて無い。
のぞき穴の向こうには、よれたスーツ姿の中年男性と若い女性がいた。
誰?何?信子は居留守を使うかどうかで迷っている。
信子が躊躇しているとまたインターホンが鳴る。合わせて
「すいません、佐々木さん。おられますか」と女性の声がする。
居留守を使ってやり過ごしても、この人たちが誰かが気になる気持ちを
抱えてまま過ごしたくはない。仕方なくドアを開けた。
「ああ、朝早くに申し訳ございません。私、西代署の中西と言います」
男の方はそう言うと警察手帳を広げて信子に見せた。
「島田です」
女性の方も同じく警察手帳を信子に見せる。
「警察・・・?警察がなんですか」
まさか母の虐待事件が刑事事件になった⁉
そんな馬鹿な!ちゃんと行政に従ったのに!!
「佐々木さん?佐々木さん?」
「・・・はい何ですか」
「どうかされましたか」
「いえ、で、何ですか」
「ああ、すいません。実は少しお聞きしたい事があるのですが。お時間よろしいでしょうか?今日もお仕事ですよね。無理でしたら仕事の後でも結構ですよ」
「いえ、出勤まで30分くらいなら時間はあります。どうぞ」
仕事の後なんて勘弁してほしい。どうせ逮捕されるなら
今日の仕事も無駄じゃないか!
信子は心の中で叫んだ。
「ではお言葉に甘えて。昨日鈴木悦男さんという男性とお会いしましたよね。その時の様子を教えて欲しいのです」
鈴木悦男⁉母じゃない?どういう事?虐待事件で逮捕に来たんじゃないの?
とにかく良かった。そうだ鈴木悦男!それはそれで何?
「えーっと、すいません、確かに昨日彼とは会いましたけどそれが何か?」
「すいません、詳しくはお伝え出来ないのです。ただその時の様子を知りたいだけなんです」
「私が彼から訴えられたとか、何かされたとかじゃないんですね」
「ええ」
なんだ、良かった。ただの聞き込みか。あー、ヒヤヒヤしたよ。
「しかし佐々木さん、今の話しぶりからすると何か彼とトラブルでも有ったのですか」
しまった、返答が不味かった。警察相手に嘘をつく器量は無い、それに悦男とのトラブルは私の方が被害者なんだから下手な隠し立ては損だ。
それが信子コンピューターの回答だった。
「実は、私彼から乱暴されたんです・・・」
さすがに刑事ともなるとそれで驚いたりはしない。
「なるほど、辛い思いをされたのですね」
「はい、それで怒りが収まらなくなって彼の元に行きました」
「乱暴された相手に?警察に相談しようとは思わなかったのですか」
「乱暴された時は酔ってたんです。普通の状態なら彼も力づくでどうこうする人じゃないし、反省してくれたらそれで良かったんです」
うん、嘘は言ってない。この回答で正しい筈だ。信子は自問自答する。
「彼にはなんて言ったんですか?」
「反省して苦しんで下さいと言いました」
「なるほど・・・うん、はい分かりました。朝からご協力ありがとうございました」
「いえ」
二人の刑事は帰って行った。
なんだったんだろう?鈴木悦男に何があったのだろう?
また今日の帰りにこっそり見に行くとしよう。
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