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永住権
別に鈴木悦男という存在がこの世から消滅しても
信子にとって惜しくはない。
しかしなぜだろう。
鈴木悦男は信子の世界には永久に居続ける気がした。
一度、性的な関係を持ったからだろうか?
悦男が信子に好意を持っていたからだろうか?
いやそれは大した事ではない。
不思議なものだ。
失踪して信子と永遠に関わりを持たなくなる事も
死去して信子と永遠に関わりを持たなくなる事も
同じ事の筈なのに。
失踪して信子の前に永遠に会わなくなっていたとしたら
信子はいずれ悦男を記憶の片隅へと追いやっただろう。
だけど
死去して信子の前に永遠に現れない選択を悦男は
信子の記憶の世界の住人となった。
これが死なのか?
そもそも悦男が自殺した原因は信子ではないかもしれないのに
信子は自分が殺した気分から抜け出せなかった。
調べなければ、勝手に失踪と決めつけてやがて忘れられたのに
どうして自分は気になってしまうのだろう。
本当に嫌になる。
愛も親しみもない人間が自分の中で永住権を獲得してしまった。
死のインパクトは恐ろしい。
肉体は滅びでもその存在が誰かの中で生き続ける。
てっきり美しい話と思っていたのに
私にとってはただただ迷惑な話だった。
悦男の母は今日も又、施設で日々を過ごしている。
息子が死んだことを知らない、知る事もできない。
悦男は母の事は気がかりでは無かったのだろうか。
わずかな貯金を託したらしいがそれで気が済んだのだろうか。
信子は悦男の母の事が気になった。
一度会いに行ってみよう、そんな気持ちが生まれた。
ああ、これは私の中の悦男が私を操って母の様子を見に行きたいのだな。
だが死者とはある意味最強だ、もうどんな攻撃も通用しない。
逆らえない、信子は足は悦男の母の施設へと進んでいた。
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