認めません

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認めません

「生きている意味を探す」 なんて大層な理想を掲げたところだが、これまでの信子の 自堕落な生活に対するツケは、現実として襲い掛かって来る。 「佐々木さん、まさか朝から飲んできてないよね?お酒臭いよ」 そう同僚から言われてドキッとする。 普通の人なら職場で生涯言われずに済むセリフを信子は言われてしまった。 無自覚だった。 もちろん朝から本格的に飲んではいない、が3時までどっぷり飲めば 朝までに酒は体から抜けきらない。 不思議と眠くはない、定時までスッキリしている。 しかし帰宅と同時に気絶する様に落ちる。 19時から23時くらいまで眠ると、そこから飲む。そう3時か4時まで。 これが定番化していた。 ただ気分は良いし、何なら体調も良いので信子はこのサイクルに 問題を感じなかった。 しかし、就業開始しても酒臭いのはさすがにまずい。 飲むのは2時くらいまでにしておこう。 と思っていたら2時どころか5時まで飲んでいる、しかもまだ飲みたい。 全然眠くない。帰宅と同時に睡眠をとっているからだろうと思って 信子は不思議に感じていなかった。 もう、このまま出勤時間まで飲んで過ごす事にした。 そしていざ、その時が来て1つの問題が発生する。 バッチリ臭い。自分でも分かる。 自分の匂いというものには人間は鈍感に出来ているのに臭い事が分かる。 とは言え、対策はいくらでもある。 信子は口臭ケアのスプレーやガムをひたすら詰め込んで アパートを出た。 今日は匂いを周りが気にしている感じも無いし、いつも通り気分は 冴えてるし、どうやら問題無い様だと胸をなでおろす。 しかし体調の方に変化が発生した。 腹が減らない、それよりも一杯飲みたい気分だ。 仕事の休憩時間というのは何でもしていい時間ではない。 欧米ではランチにワイン1杯なんてのは有りらしいが ここは日本だ。それくらい信子も当然分かっている。 しかし、まあお酒って高カロリーだし匂いは消せるしいいよね。 そんな気分で缶チューハイを2本、トイレにこもって飲み干した。 仕事中だから低アルコールのお酒にしてる私はちゃんとしている。 それが信子の感覚だった。 帰宅するや否や、また着替えもせず敷きっぱなしの布団で寝落ちする。 そういえば最近風呂に入ってない、さすがに今日は起きたら飲む前に 風呂に入るか、まどろむ意識の中でそんな事を思っていた。 が、目覚めると飲んでから入ろうと気持ちが変わる。 そして出勤時間ギリギリまで飲んでしまい 風呂に入る時間も無いまま、出社した。 その繰り返しの末路は当然、言わずもがな。 信子は通勤電車の中で意識を失った。
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