ほたるのうんめい

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「運命の番を探していたんです」 そう言って話し出した蛍一。 幼い頃から仲の良かった両親に憧れて、自分もそんな番が欲しいと思っていた蛍一は、運命の番というものを知る。 それはまことしやかに囁かれる都市伝説のようなものだ。 アルファとオメガにだけ見られる夢。 この世にはたった一人だけ運命の糸で結ばれた番が存在する。 普通の番でもあんなに仲がいいのなら、それが運命だったらもっと仲良く幸せになれるのではないか。そう思った蛍一はいつしかそんな運命の番に憧れ、探すようになった。 「僕もオメガですからそれなりに告白もされ、いい雰囲気になった人もいましたし、定期的にくる発情期の苦しさに耐えかねてこの身体を慰めてもらおうと思ったこともありました」 それでも、もしかしたら出会うかもしれない運命の番を思うと、安易に行動することが出来なかった。 「そんなことをしているうちに30才になり、35才になり・・・気がつくと周りはみんな番を得たり結婚したりしていました。それで思ったんです。運命の番探しは38才までにしよう。それで見つからなかったら、最初に縁があった人と結婚しよう、と」 いま蛍一は38才だ。 ならばオレが『最初に縁があった人』なのだろうか? そう思っていると、蛍一から予想外の言葉が聞こえた。 「だけど僕は、運命の番と出会えたんです」 予想外のその言葉にもそうだが、本当に存在していたことに驚く。 「取引先の営業の人でした。僕の担当ではなかったのですが、たまたま代理で訪れた先に彼はいたんです。会社に入った時から胸がドキドキして息が苦しくなって、そして彼が近づいてきた瞬間僕は発情したんです」 今やどの会社にもオメガのセーフティルームがある。発情に気づいた他の社員によってそこに隔離され、その部屋備え付けの緊急抑制剤を打った。 「だけど効かなかったんです。部屋の外では彼も発情(ラット)を起こしてやっぱり緊急抑制剤が効かない状態でした」 薬が効かない発情に会社は救急車を呼び、二人は別々の救急車で病院に搬送された。すると嘘のように発情は治まったという。 「まるで狐につままれたようでした。あんなに苦しかったのに、救急車に乗ってしばらくするとすぅっと発情の熱が治まったんです」 別々の救急車で別々の入口から搬送された二人はその時、思いがけない話を医師からされることになる。 蛍一が運ばれた部屋は完全にフェロモンを遮断する部屋、オメガの発情期部屋だった。そこに隔離された蛍一は、もしかしたら相手が運命の番である可能性を告げられる。
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