ほたるのうんめい

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正直、この関係がこんなに長く続くとは思ってなかった。あの子をちゃんと大切にしてくれる恋人ができるまでの、せいぜい3~4年の間だろうと軽く考えていたのだけど、それがなかなか難しかったのだ。 あの子は本当にオメガを絵に描いたような子だった。 全体的に色素が薄く、白い肌に茶色い髪と瞳。そして、その髪は猫っ毛のように柔らかく、軽くウェーブがかかっている。背もそれほど大きくなく身体つきも華奢だ。 初めて会った時に天使のようだと思ったけれど、その印象は何年経っても変わらず、成長のピークを過ぎても本当に天使のように愛らしかった。そして性格も。 物怖じせず、人見知りもしない。誰にでも変わらず話せてすぐに仲良くなれる。本当に天真爛漫で誰からも好かれ、間違っても誰かに嫌われるなんて無いような子だった。 そんな子だからすぐに恋人が出来るだろうと思っていた。だからその時はちゃんとオレも会って、オレの目からも信頼できると判断したら、発情期のお相手はやめようと思っていたのだ。なのに、いつまで経ってもその『信頼出来る相手』が出来なかったのだ。 あの子は恋多き子だ。 すぐに誰かを好きになる。好きになると寝たくなる。寝たくなるからすぐに寝る。でも寝ると冷めてしまう。 どういう精神構造なのか、このような4段オチのような出会いと別れを繰り返し、あの子の男性遍歴(全部男だった)はすごく豊富だ。数で言ったらかなりの数になる。 中には少し付き合った人もいたようだけど、やっぱり長続きせず、当然発情期を共にできるほどの信頼は持てなかった。 そんなあの子も実は片思いの相手がいる。けれどその片思いは拗らせに拗らせ、思いを告げられないまま、だけど忘れることも出来ず何年も思いを抱えることになり、当然その間は特定の誰かと恋人になることも無かった。結局、オレの役目も終わることが出来なかったのだ。 そんな関係を続けていたら、オレはいつの間にか結婚もせず40才を迎えていた。 いや、それまで誰とも付き合ってこなかったわけじゃない。だけどあの子の発情期よりも大事に思える人に出会わなかったのだ。変な話、あの子と恋人の発情期が重なっても、オレはあの子を優先させてしまっていたのだ。まあ、そんなオレから恋人が離れていくのは至極当然の結果なのだけど、あの子よりも優先させたいと思う人がオレの前に現れなかったのだ。 それならオレはあの子が好きなのか? そう思ったこともあるけど、不思議とそれはなかった。
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