完璧な小説

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   小説を書いた。きっかけは今季見ていたアニメにどハマりして原作小説を買ったことだった。でも、結論から言うと小説は最初のいちページしか読んでなくて、もともと活字が苦手だった私はほんの一行読んだだけで卒倒アンド即就寝してしまったわけで、でも小説書いて一発当てたい、これくらいのストーリーでアニメ化されて映画化されてその影響で原作も売れて印税ウハウハ生活を送れるなら小説の一本や二本さくっと書いてやる、なんてと思ったからだった。  齢二十歳、はじめて書いた短編小説。  二・三十代女子が心ときめく純愛ラブストーリー。とりあえず、誰かにアドバイスをもらってからコンテストに応募してみよう。  そう思って親友のユウカに小説のデータを送信した。 「最低」  ユウカは読み終わると、開口一番にそう言った。  彼女の眉と眉の間に横たわる(しわ)は、ヒマラヤ山脈のクレバスを彷彿とさせるほどの深さだった。 「ミオさ、私が先月ケイタに浮気されて別れたの知ってるよね」 「あ、うん」 「それなのに、浮気した側が幸せになる小説を私に読ませるなんてどういうつもり? 嫌がらせなの?」  その言葉に、私は呆然とした。  たしかに、この小説は泥沼不倫の末、不倫した女性が相手の妻を棍棒(こんぼう)で撲殺して男とくっつくというストーリーだ。  ユウカの境遇と似ているといえば、似ている。ユウカの場合は結婚まで至っていないし、撲殺もされてはいないけど、小説を読むことで嫌な過去を想起させられる部分はあったかもしれない。  でも、フィクションだし。五分で読める短編だし。  ユウカがそんなに、小説に対して感情移入するなんて思っていなかった。  
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