完璧な小説

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  「ごめん……」 「デリカシーがなさすぎるよ。あんたっていつもそう。この前お茶したときだってさぁ、待ち合わせの約束に二時間遅刻したうえに私の新品のワンピースにシーフードカレーぶちまけるし、先月一緒にホラー映画見に行った時は四時間遅刻したうえにゾンビが出てくるたびに奇声上げて映画館出禁になったし、五年前の熱海旅行の時は六時間遅刻したうえに干物喉に詰まらせて……」  ユウカが爆発モードに突入してしまったので、私はひたすら謝罪しながら耐えた。「女の怒りはポイント制」とかいう、今時ジェンダー問題的にどうなのと思う迷信を彼女は地で行く。なので、怒り出すと基本止まらない。  最終的に、私は彼女のアドバイスを聞き入れることで怒りを鎮めた。  もう二度とこのようなことが起こらないよう、小説の冒頭に注釈を入れるのだ。  ※この小説には不倫に関する記述が出てきます。苦手な方はご注意ください。  たしかに、これなら誰も傷つけない。今後この小説が大ヒットして不特定多数の人に読まれたとしても、本文を読みはじめる前に危機は回避されるだろう。  よかった。三時間も叱責されてしまったけど、結果オーライだ。  ユウカにお礼を言って、小説に加筆した。  でも、まだコンテストに応募することはできなかった。ユウカ以外の人にも読んでもらいたい。真の文字書きというのは、公開前にいろんな人に読んでもらって改善していくのだというから。  そう思って従兄妹のリュウジに小説のデータを送信した。 「最悪」  リュウジは読み終わると、開口一番にそう言った。  リュウジの瞳の奥には、近所の老舗中華屋「好吃(ホウチー)」が餃子付き海老炒飯を作るときの火力なみの憤怒の炎が燃え上がっていた。  
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