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「ミオさ、うちの奥さんがいま妊娠五ヶ月目なの知ってるよな」
「あ、そうなんだ。おめでとう」
「この小説、赤信号を無視して渡るシーンがあるけどさ、俺の子が読んで真似したらどうすんだよ。危険すぎる。それで事故でも起こしたら責任とってくれるのか」
その言葉に、私は呆然とした。
たしかに、この小説は不倫された妻が不倫した女性に追いかけまわられ、赤信号を無視して横断、最後には冬の隅田川に飛び込むというシーンがあった。
子供が読んだら、信号無視は合法のものと思ってしまうかもしれない。実際、街中で赤信号なのに道を渡る歩行者を見かけることはあるから、小説にまでそんなシーンが出てきたら小さい子が勘違いしてしまうこと請け合いだ。
でも、フィクションだし。五分で読める短編だし。
リュウジがそんなに、小説に対して感情移入するなんて思わなかった。
「で、でもさ。この小説、ほかにも不倫したり、遊泳禁止の川に飛び込んだり、近所の武器屋から盗んできた棍棒で人を殴り殺すシーンもあるけど、その辺はどうなのかな」
「いや、その辺は親として俺がちゃんと説明するし、そんなことさせないように育てるよ。当たり前だろ。それより、信号無視は大問題だ。読む人に勘違いされないよう、注釈を入れるべきだよ」
リュウジの持論はよくわからなかったけれど、赤ちゃんのエコー写真まで持ち出して熱弁してくるものだから、従わざるを得なかった。
とりあえずリュウジは、私の小説が出版されたとしても子供に読ませないでほしい。
※この小説には信号無視をする記述が出てきますが、歩行者の信号無視は道路交通法違反であり最大二万円の罰金、または科料となる可能性があります。ご注意ください。
たしかに、こう書いておけば誰も真似することはない。今後この小説が大ヒットして老若男女の人たちに読まれたとしても、小説きっかけで法を犯す人は現れないだろう。
よかった。仲のいい従兄妹なのに妊娠も結婚もお知らせされてなかったことは地味にへこんだけど、結果オーライだ。
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