完璧な小説

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   結果は二ヶ月後に発表だった。発表日当日、緊張しながらコンテストのウェブサイトに飛んだ。『短編小説コンテスト結果発表!』と書かれたバナーを震える指でタップし、ページを開く。  見ると、驚くことに結果は最優秀賞だった。  選評には、私の小説を褒め称える言葉が並んでいた。 『涙を誘うストーリー、卓越した構成もさる事ながら、この小説はこれから読み始める読者に対して多くの配慮がなされています。冒頭の百行にも渡る注釈、この点が高く評価され、審査員の満場一致を得て最優秀賞となりました』  *  賞金の一万円で、お祝いのビールを買った。  貧乏人の私には普段手を出せない、ちょっとお高いやつだ。六畳一間の和室に寝転がり、勢いよくプルタブを引いた。一気に飲み下すと、発泡酒でも第三のビールでもない、コクのある喉越しが私を佐賀県の大麦畑へと(いざな)ってくれた。まさしくプレミアムな味わいだ。  でも、なぜか飲んでも気持ちはすっきりしなかった。  なんなんだろう、この感じ。あー、逆にイライラしてきた。せっかくの麦芽百パーセントなのに、なぜか湧き出てくる負の感情。  一気飲みをして、ちゃぶ台の上に叩きつけるように缶を置く。  その缶の淵に、とある注釈が書いてあることに気づいた。  ※このビールは、自分の小説を他者に言われるがまま修正し、納得できないままコンテストに応募しうっかり入賞してしまった際のモヤモヤ感をなだめる効果はありません。ご了承ください。  
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