4 縁談成立となりました

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今回の一連の出来事を振り返って思うのは、 もしも、久瀬さんとお孫さんじゃなければ、 私はきっとその申し出をお断りしていたとい うこと。 例えば、お見合いに至る経緯が同じだったと しても。 仮に恩返しのつもりで引き受けたとしても、 その仲介者もお相手も全くの別人だったら、 もっと形式的で表面的なお見合いだったし、 それこそ結婚を前提に交際なんて考えられな かった。 お見合いを引き受けたのは仲介者が久瀬さん だから。 突然の申し出を受けたのはお相手がお孫さん だから。 そんな風に結論に至った今となっては心底思 うのだ。 「正直、ご本人にお会いするまでは心配だっ たけど、久瀬さんのお孫さんだけあって紳士 的で優しい方だったから私達も安心したわ。 お父さんも「好青年だな」って感心してた。 お見合い前に久瀬さんとお店に来てくれたで しょう? あの時、お父さん工場から出て行って影から 様子を伺っていたのよ」 「えっ」 「高橋さんがこっそりお父さんに教えてくれ たのよ。 お父さん納期でお見合いに同席できないこと が決まってたでしょう? お孫さんがどんな方か気になっていたのね。 高橋さんからそのことを聞いたお父さんが、 事務所にいた私にも知らせにきてくれてね。 廊下の死角から二人して店頭の様子を観察し てたの。 ただお父さんが「美音に気づかれたら気まず い」って言ってたから。 お二人が帰ったタイミングで廊下から出て、 すぐに仕事に戻ったの」 「そうだったんだ……」 初めて知る事実だった。 お見合い当日に実家に泊まっていった夜に、 仕事から帰宅した父に大まかに報告はしたけ れども、父からお見合いについてあれこれ聞 かれることはなかった。 寡黙な父の性格を考えれば予想通りではあっ たから、正直言って驚きはしなかったけど。 実は私に隠れてそんな行動を取るほど気に掛 けてくれていたなんて。 「お父さんには内緒ね。 ああいう人だから娘に知られたら気まずくて しょうがないだろうし」
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