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「良くないですねぇ」
俺の隣で、死神が言った。
「あなた未練タラタラじゃないですか。私達、死神とは名乗ってはいますけど意外と力はなくて、あくまで本人の同意がないとあの世には連れて行けないんですよねぇ。このままだとあなた、地縛霊とか背後霊になっちゃうパターンじゃないですか」
「は? 当たり前だろ。急に死んではいそうですかなんて受け入れられるかっての」
「皆さんそう言うんですよ。特に最近の若いかたにはそういう人、多くてですねぇ。死んだ魂は回収してリサイクルしないといけない。そうしないと次の命に魂を回せないからどんどん少子高齢化が進むんですよって説明しても、生まれ変わりたくない、死んでもこどおじニートのまま実家にいたいとか、推しを置いて自分だけあの世に行けないとか好き勝手言っちゃって。長寿命化で回収できる魂の数は年々減る一方なんですから、そんな事言ってる場合じゃないんですよ。亡くなった方はすぐに次の身体に移ってもらわないと」
「リサイクル? 次の身体?」
「そう。もうあなたの次の行先も決まってるんです。だから早いところ成仏に同意してもらって、転生手続きに入らせていただきたいんですよねー。どうでしょう? 今なら待ち時間なしで新しい人生が楽しめますよ」
時代劇の悪い商人みたいに揉み手しながら、わかりやすく下手に出る死神。こいつどうしてこんな逆撫でするような態度しかとれないんだろ。死神に向いてないんじゃねえか。
「同意って言ったって……」
無意識に視線は梢に向いてしまう。梢は俺に会って、何を言うつもりだったんだろう。今頃、俺が手紙を無視したとでも思っているんだろうか。あいつに会いに行く途中に事故に遭って死んだなんて知ったら、どんなに悲しむだろう。
見慣れない化粧を施し、いつになくお洒落をした梢がしゅんとして俯いている様子は、見るに堪えなかった。
「心残りなのはわからないでもないですけどね。あなた今まで女性とお付き合いした経験もないみたいですし。せめて死ぬ前にキスぐらい……あわよくばもっとその先まで、なーんて思いますよねぇ。でもほら、冷静になって見て下さいよ。彼女、そんなに可愛くもないじゃないですか。どうひいき目に見たって人並み、月並みレベルのルックスですよ。いいとこ中の中か中の下。さっさと生まれ変わってもっとマシな人探した方が良いんじゃないですか?」
「うるせーっての」
梢のルックスがいまいちだなんて言われなくても俺が一番わかってる。俺だって今まで恋愛対象として意識した事なんかなかったけど、あいつが書いてくれた手紙を見たら、昔一緒に遊んだ想い出とか、たまに会った時にほっとする感じとか、色々考えちゃって眠れなくなったんだ。
だからこそ直接あいつに会って、あいつの言葉を聞いた上で、俺の胸の中でぐるぐるするこの気持ちが何なのか、確かめようと思ってたのに。
「うーん、困りましたねぇ。よし、じゃあこの際直接本人に会っちゃいましょうか。あの子が快く送り出してくれればあなたの未練もなくなりますもんね」
「え、お前ちょっ……」
止める間もなく、死神は突然俺の手を掴むとバビューンと空を飛んだ。
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