死神に向いてない

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               ※ 「ええと、あの初めまして。死神といいます」  呆気に取られる梢に、死神は平然と名乗った。 「死神って……」 「いえいえ、別にあなたをお連れしに来たわけじゃないんです。実はたった今、あなたの知っている人が死ぬ事になりましたので、つきましては最後のお別れをと思いまして」  一瞬怯えたように見えた梢は、後ろに立つ俺に気づいてはっと息を飲んだ。 「優也……死ぬって、まさか……」 「……ごめん」  いたたまれなくなって、俺は目を逸らした。それでも梢の目に涙がにじむのがわかる。 「どういう事? いつ? 一体何があったの?」 「いや、俺もまだよく整理できてないんだけど……その……簡単に言うと、事故に遭っちゃって……車に轢かれちゃったんだ」 「そんな……」 「……ごめん」  もう存在しないはずの胸が締め付けられるように痛くなった。本当ならきっと今頃は生身の身体で、こうして向き合っていたはずなのに。どうしてこんな……。 「ええと、そんなわけで神永優也さんは死ぬ事になりました。でもあなたの事が心残りだというので、こうしてお連れしたんですよ。あなた、何かこう気の利いたセリフでも言って彼を成仏させてもらえませんかね? 安らかにお眠り下さいとか、後の事は私に任せろとか」  いちいち水を差す死神に文句を言おうと口を開きかけたその時、遠くからピーポーピーポーと救急車のサイレンの音が聞こえて来た。 「ほら、もう救急車も来ちゃいましたし……と言っても病院に連れてって、死亡判定してもらうだけでしょうけど。人間の場合、いちいち医者に死亡判定出して貰わないと死んだとは認められないんだから面倒ですよねー。私達から見れば、死んだか死んでないかなんて一目瞭然なのに……んがっ」  妙な声を出して口を噤む死神。その襟首を両手で捩じ上げるのは、梢だった。 「ちょっと待って! 救急車って事はこの近くにいるの? まだ優也は死んでないって事?」 「いや、で……ですから死んだとか死んでないとかいうのは現世での法律上の話で、私達から見れば……」 「いいから答えなさいよっ! どっち? 優也の身体はどこ?」 「……あ……あっち……」  息も絶え絶えに死神が指差すと、梢は一目散に走り出した。投げ出されて尻もちをついた死神が、盛大にむせ返る。 「……ゴホッ! ホッ! な、なんて子なんでしょうねぇ。死神に暴力振るうなんて」 「いいから、それよりも……」  俺は死神を助け起こし、二人で梢の後を追った。
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