21. 先生の気持ち

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 先生の優しさに甘え、秋山に背中を押され、結局俺はまた準備室に足しげく通っていた。  もうすぐ3月。  理科準備室パトロールし始めた期間も長くなったなって嬉しく思う。  そして気づいたこと――。  前より先生がそこにいる。以前は不在のハズレもあったのに、最近はほぼ100%アタリってことに。  俺の髪を柔らかく撫でたあの日から、いつも先生はそこにいてくれた。 「で、遺伝子の問題はクリアできたのか」  準備室に置いている私物や書類を整理しながら、先生が背中越しにそう聞いて来る。  俺はテーブルの上、コーヒーの空き缶の隣に外して置かれている曽我先生の腕時計をこっそりはめてみていた。結構ぶかぶか。 「いやぁ先生、DNAというものは一生のテーマですね」 「クリアできてないな」  不要な物をひとまとめにして紐で縛ると、空き缶も捨てようと応接セットのとこまで歩いてくる。  先生の時計をしている腕をカチャカチャ振っている俺を見て、あきれたように小さく笑った。 「来年は受験なんだから、ちゃんと勉強しとけよ」 「あー、そうなんだよなあ。進路どうしよう。受験近づいたら相談乗ってよ先生」 「進路指導の先生んとこいけ」  そう言いながら、空き缶をヒョイと取って分別用ゴミ箱に投げ入れる。 「俺この成績で大学進学できんのかな」 「進学せずアート系に進んだヤツもいるぞ。卒業生で」 「え? そうなの?」 「エントランスホールに寄贈された絵あんだろ」  先生は俺の向かいの椅子に座り、軽く伸びをしながら教えてくれた。  あるある。すごい綺麗な風景画。  どっか外国の街みたいだけど、よく見たらここの屋上からの景色を描いたやつ。 「そうなんだ。……でも、それは受験よりハードル高いなあ」
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