21. 先生の気持ち

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 しかめっ面で今日も一応持って来ている生物の教科書を見ていた俺は、ハッと先生に向かって顔を上げる。 「教育学部行って、俺も曽我先生みたいに教師になろうかな」  んで、将来二人で「先生あるある」で盛り上がりながら酒飲んだりするの。うわ、それめっちゃイイじゃん!   明るく目標を掲げる俺の顔を見て、先生は苦笑いで頭をかきながら、 「教師は大変だぞ。どっかの誰かみたいに、ささやかな休息を奪いに来る生徒がいたりするし」  そう言ってそのままその手を膝に乗せて頬杖をつき、チラリと俺に目線を送った。  うぅ……。返す言葉もない。  その後なぜかちょっと言葉を切って、その間俺のことを見ていた先生がふと視線を外すと、 「気になるヤツいても、生徒には絶対手出せねえしな……」  いつもの低い声でボソッとつぶやいた。    ……ううん、違う。  いつも聞いてるのに、いつもと違う声に聞こえた。  曽我先生――。今何て言ったの?  視線を外した先生は、窓の外を見ている。 「…………せんせ、」  口を開きかけたその時、5時間目開始前の予鈴が響いた。  それと同時に椅子から立ちあがり、 「はい、早く戻れ。授業に遅れんぞ」  手を伸ばして時計を返すよう促す先生はもういつもの先生で、さっきまでの顔はそこにはなかった。  窓の外を見るその横顔も、  いつもと違うみたいに見えたんだ――。
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