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そんなことを考えていた時、少しだけ高い位置からの目線で俺のことを見つめ、首をかしげるようにしてつぶやいた声が聞こえた。
「樋口。背、伸びた?」
え? って思うことを突然言ってきたのでびっくりする。
「うそ、マジで!? 伸びたのかな。もうすぐ高3だけどまだいけんのかな。だったら超嬉しいんだけど」
だって、背の高い曽我先生と釣り合うようになりたい。
沈んだり浮かんだり、先生相手だと大忙しの俺の気持ちがその言葉でまた一気に上がる。
パッと明るい表情になった俺を見て、先生の目許がふと柔らぐ。
そして優しく温かい瞳で静かに笑った。
(――先生?)
最近先生は時々見たことない表情を見せる。
それを見ると俺の心臓はトクンと跳ねた。
ホラ。……今も。
「来月から高校3年か。……早いな」
そう言うとポフッとゆっくり髪を撫でた。あの日みたいにあやすように穏やかに。
校庭の桜のつぼみが膨らみ、その時を待っているような季節。
曽我先生の優しい笑顔と温かい掌が、一足早く俺の頬を桜色に染めた。
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