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第1話 卑下者、勇者に転生?
人間万事塞翁が馬、 と言うが本当にそうだろうか?
俺の名は無糖 才花 (むとう さいか)
俺の人生、 嫌なことや辛いことは沢山あった。
良い事は、 思い出せないだけかも知れないが、 殆ど無かったように思える。
人生ハードモードとはよく言ったものだ。
俺は死んでしまったが、 正味な話このまま生きていてもきっと変わらない人生だったろう。
やっと楽になれるのかもしれないな。
俺は静かに眼を閉じ、 考えることを止めた。
目を閉じてから幾分か経っただろうか。
俺は何となく目を開ける。
死後の世界とは何も無い虚無の世界なのだろうか。
依然として何も無い、 ただ少し明るいだけの空間が果てしなく続いてるだけだ。
しばらく果てを眺めていると、 突如自分の体が明るく光だした。
その眩しさに、 再び眼を閉じた。
しばらくすると、 再び懐かしい重みを感じ始めた。
これは重力か?
俺はゆっくり、 閉じた眼を開いた。
?? 「おぉ! 成功だ! 勇者召喚の儀成功したぞ! 」
勇者? 召喚?
何の話をしてるんだ?
次第に視界がクリアになってくる。
辺りを見渡して見る。
ローブに身を包んだ何者か達が取り囲んでいた。
そして俺は魔法陣の上に佇んでいた。
何だかどこかで見たような光景だ。
そうだ、 アニメやゲームでよく見る異世界転生物の展開だ。
いやまさかな、 そんなことあるわけ……。
神官風な男 「勇者様、 我らが召喚の儀に応えて頂き真にありがとうございます! 」
俺 「ここは何処ですか? それに勇者とは? 俺はそんな大層なものでは……。 」
神官風な男 「困惑なされてるのですね。 無理もありませぬな。 仔細は我が国の国王様が説明して下さるでしょう。 ささどうぞこちらへ。 」
俺はしぶしぶ男たちについて行くことにした。
道中窓から外を眺めてみると、 まるで海外の街並みのような城下町が広がっていた。
どうやらこの王国はそれなりの規模のようだ。
そしてさらに幾分か彼らについて行くと、 ほかの扉とは明らかに勝手が違う、 豪勢な扉の前に連れられた。
どうやらここにこの国の王様が居るのだろう。
神官風な男 「これより先は国王様の御前です。 くれぐれも無礼の無いように。 」
そして彼はゆっくりと扉を開けた。
国王 「おぉ! 遂に召喚の儀が成功したか! さぁさぁ、 その者を此方へ! 」
国王はいかにも王様、 って身なりであった。
高そうな衣を身にまとい、 たいそう立派な髭を生やしていた。
国王 「我らが召喚の儀によくぞ応えてくれた。 礼を言わせてもらう。 私はこの国の国王、 サンバルト・ヴィ・ゲールマンである。お主、 名をなんと申す。 」
俺 「あっ、 えと、 国王……様。 お目にかかり光栄に思います。 俺じゃなかった私は無糖 才花と申します。 」
国王 「ふむサイカか。 確かに珍しい名じゃな。 さて 何故お主がここに居るか、 それを説明せねばなるまいな。 よく聞いて欲しい。 いま我が国、 ひいてはこの世界は今危機に瀕しておる。 今世界中で魔物が大量に発生しておる。 伝承によればこれは数百年に1度起きると言われておる、 ”カオスホード” 。 それが今各地で起きておるのだ。 そして伝承にはこうも記さておる。 別世界より招き入れし勇ある者、 大いなる力で闇を払わん。 とな。 」
俺 「なるほど、 それで私が召喚されたと言うことですね? ですが申し訳無いのですが、 自分は勇者等とそんな大層な人間ではありません。 何故自分が召喚されたのかは知りませんが、 何かの間違いなのではないでしょうか? 」
俺がそう告げると、 周りの従者や衛兵達がざわつき始めた。
国王 「うむ、 我々も勇者召喚についてはまだまだ理解が薄い。 じゃが勇者の剣塚に行けば何か分かるやも。 タルホン、 この者を剣塚に案内してやってくれ。 」
国王がそう告げると、 先程の神官風な男が再び俺を案内してくれるようだ。
タルホン 「それではサイカ様、 こちらへどうぞ。 」
俺は再びついて行くことにした。
しばらく階段を下って行くと、 また一際雰囲気の違った扉の前に着いた。
タルホン 「こちらが勇者の剣塚になります。 これより先は神聖な場。 勇者に連なる者しか入れません。 私はこちらでお待ちします。 どうぞ扉に手をかけてください。 あなたが勇者たるものならトビラは開かれましょう。 」
つまり扉が開かなければ俺は……。
少し身震いがした。
俺は1度大きく息を吐き、 落ち着かせる。
そして覚悟を決め扉に手をかける。
すると錠前が開いたような音がなり、 扉を少しずつ勝手に開かれていった。
俺が1度タルホンを見る。
彼は頷いた。
俺は不安を残しつつ部屋に歩を進めた。
俺が部屋の真ん中程に来ると扉は再び音を立て、 閉じだした。
そして壁にかかっている松明に火が灯る。
部屋の奥に目を配る。
剣の形をした石碑のようなものが佇んでいた。
あれが彼らが言う勇者の剣塚なのだろうか。
俺はゆっくり歩を進め、 剣塚に近づいて行った。
そして目の前に来ると、 まるで知ってるかのように手を石碑にかざした。
すると突如激しい目眩に見舞われた。
その目眩はしばらく待っていると、 すぐに治まっていった。
そして俺は周りを見渡した。
そこは、 先程まで居た遺跡のような場所ではなくなっていた。
そこは長閑な場所であった。
辺りには草原が広がっており、 何処からか鳥のさえずりも聞こえてくる。
近くには小川があり、 水の流れる音が聞こえている。
なんとも心安らぐ場所だ。
俺が物珍しそうに眺めていると、
?? 「良くぞ参りました。 勇ある者よ。 あなたを待っていました。 」
どこからともなく、 済んだ女性の声が聞こえて来たのだ。
不思議な声だ、 聞いてるだけで安らぐ。
これがいわゆる ”F分の1ゆらぎ” と言うものだろうか?
俺 「ここは一体? それにあなたは一体何者ですか? 」
?? 「私の名はムルメス。 この世界の神の1人です。 」
神?
神なんてものは信じてなかったが、 本当存在するのだろうか。
それともこの世界は本当に神が存在しているのか?
俺 「神様ですか、 あっ失礼しました。 俺は……」
ムルメス 「存じ上げておりますよ。 無糖 才花様。 あなたの事はよく知っております。 だからこそあなたはここに居るのです。 」
俺の事を知ってる?
神様って言うのはあながち間違いでは無さそうだ。
俺 「そうなのですね。 では教えてください。 なぜ俺はここにいるのですか? 確か俺は死んだはず。 それに勇者だなんて俺にはとても…… 」
ムルメス 「えぇそうです、 あなたは元の世界で死んでしまいました。 そしてあなたはこの世界の勇者の1人に選ばれたのです。 」
俺 「だからなんで俺なんでしょうか? 俺は勇者なんてものには到底及びませんよ! 」
ムルメス 「勇者の定義とは何だと思いますか? 」
俺 「勇者の、 定義、 ですか? そんなの分かりませんよ。 」
ムルメス 「えぇそうです、 そんなものは人それぞれ違うと私は思います。 要は心のあり方、 だと私は思うのです。 」
心のあり方?
それなら尚更俺は不合格じゃないか。
俺は心も体も弱い。
前の世界じゃろくな生き方をしてこなかった。
そんな奴が勇者?
冗談じゃない。
俺 「俺は心も体も弱いですよ。 前の世界だって生きてる意味なんてなかった。 存在自体が間違えだった。 そんな俺が…… 」
自分で言っていて辛かった。
自分のダメさを知ってるからだ。
前の世界の自分を恥じているから。
ムルメス 「いいえそんな事はありません。 私は知っています。 」
彼女がそう言う、 と突然頬を両手で包まれたような感覚がした。
俺が落としてた視線を上げると、 薄らだが誰かが目の前に居るような感じがした。
そしてなんとも言えない温かさを感じた。
ムルメス 「あなたは覚えていますか? 自分が死んだ理由を。 」
俺が死んだ理由?
そんなの忘れたくても忘れないさ。
俺 「死んだ、 理由? 車に跳ねられてそれで。 」
ムルメス 「えぇそうですね。 では何故そうなりましたか? 」
俺 「それは……」
俺は1度言おうとした事を押し殺した。
俺 「それは大した理由じゃないです。 俺の不注意で…… 」
俺がそう言おうとすると彼女は、
ムルメス 「ほらそうやってあなたは、 ふぅ。 あなたは車に轢かれそうになった少女をかばい死にました。 そうでしょう? 」
俺 「そ、 そうだ! あの子は? あの子はどうなりましたか? 」
ムルメス 「フフフッ安心してください。 彼女は無事ですよ? 」
俺はずっと気がかりだった事が知れて、 少し安心したのかもしれない。
足の力が抜けてしまい、膝からその場に崩れ落ちた。
俺 「そうですか。 良かったそれは良かった。 」
何故か目頭が熱くなってきた。
ムルメス 「えぇ彼女は無事です。 他ならぬあなたのお陰でね? 」
俺の、 ”お陰? ”
そんなこと言われるのは初めてかもしれない。
俺は何か言い知れぬ物が胸に広がるのを感じてきた。
ムルメス 「あなたは、 決してあなたが思ってるような人ではありません。 あなたは自分を卑下しすぎていますよ。 もっと自信を持ってください。 私は知っています。 あなたは誰よりも痛みを知り、 それ故に本当の優しさを持ち合わせています。 だからこそ私はあなたを……コホン。 どうか私を助けると思って、 私ムルメスの使者として、 この世界を救って下さい。 」
初めてかもしれない。
誰かに必要とされたのは。
俺はしばらく、 頬を伝う慣れた感触に思考を停止していた。
そしてしばらくそうした後、 重い口取りで答えた。
俺 「分かりました。 俺に出来るか分かりませんが、 やれる所までやってみます。 」
ムルメス 「ありがとう! それでは契約を結びます。 そのまま動かずに居てください。 」
俺はそのまま動かずにじっとしていた。
すると俺の右手を誰かの両手が包み込む感覚がした。
これは恐らく彼女の手だ。
ムルメス 「許してくださいね。 本来ならあなた達勇者には、 人並みならぬ力を与えるのですが。 訳あって今の私にはあなたに、 それに遠く及ばない力しか与えることが出来ません。 不出来な女神を許してくださいね。 」
そう言うと俺の手を握る手は微かに震えていた。
俺 「安心してください。 俺はそんな事であなたを恨んだりはしませんよ。 むしろ感謝してるくらいですから。 」
ムルメス 「ありがとう、 あなたに私の持てるだけの加護を。 」
彼女の手から伝って、 何か暖かい不思議な力が流れてくるのを感じた。
ムルメス 「これで契約は完了です。 どうか無事で居てくださいね。 この世界でも死んでしまえば、 命は尽きてしまいます。 どうかご無事で。 再び……の元……」
段々と意識が遠のき始め、 彼女の言葉も途切れてきてしまった。
そして目の前が暗くなり、 意識もなくなってしまった。
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