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アイスクリームが欲しいんです
「おにいちゃん! あそびにいくぞ!」
耳元で喚く妹を、流行りの歌のタイトルで制するものの、兄としてはかわいい妹に付き合ってやるのは当然の義務である。兄は仕方なく、そう、やれやれといった形で問いかける。
「で?」
この『で?』は、どこへ何しに? の意味である。妹とは15年も一緒なのだ。『で?』の一言で十分である。兄妹とはそんなものだ。
「公園! いくぞ!」
ぐいぐい手を引っ張る妹に連れられて、兄は公園へと駆り出された。数カ月前に花が散り、すっかり緑の葉が茂る桜並木をくぐり抜け、それは自宅から少し離れたところにある。大きな噴水が目印の公園だ。公園には兄の背丈を遥かに超えたヒマワリが100本以上も植えられていて、それで通路が作られている。
「ねこだ!!」
は? と言う前に妹はネコまっしぐら。ヒマワリのアーチを抜けて妹はいずこかへ走っていってしまった。
公園にひとりぽつんと残された兄は、黄色い花と青い空を見比べて、なんてきれいな風景なのだろうかと、今の状況を忘れるためにその風景に心を寄せた。
突っ立っていても仕方ないので、近くにあったベンチに腰を下ろして妹を待った。妹がそうやすやすと戻ってくるようなタマじゃないことくらい分かってはいる。あいつは鉄砲玉だから。
でも、それでいい。今日は実にいい天気だ。ヒマワリと青空を見ているだけでよかった。そう思わないとやってられなかった。
肝心の妹はどこへ行ったかといえば、兄の見えない所でアイスクリームの移動販売にちょっかいをかけていた。
アイスクリーム屋からすると元気な女の子に出会った、で片付けるには少し印象が強かった。ネコを追いかけてただの、おにいちゃんと一緒に来ただの。一方的に話しかけてくるが、しかしてどうやら購買意欲があるらしいので対応するのだった。
「あたしもアイスほしい! あっちゃー、おかね無かったー! おうちに取りにいくね! おねーさんはまだ公園にいるの?」
「これから駅前で売りますよー」
「おっけーおっけー! あたしも駅前にいくね!」
姦し娘は走ってどこかへ行ってしまった。
兄は妹が戻ってこないのを辛抱強く待っていると、やってきたのは妹ではなかった。アイスクリームの移動販売だった。店主は栗毛の長髪に丸くて大きな目を携えた、かわいいお姉さんだったものだから、声をかけられた兄はドキドキしながら要りませんと応えるだけで精一杯だった。
しかし無下に断るだけではお姉さんがかわいそうだと思った兄は、なんとかして買うことにした。
「いや実は金持ってなくて……家に取りに戻ろうと思うんですけど、この後もここで販売していますか?」
「これから駅前で売って、午後また戻ってくる予定ですよ」
「そうなんですね。じゃあ午後に、またここで買うことにします」
お姉さんは手をフリフリしながら去って行った。うん、あれは売れる。そう思っているうちにお姉さんの姿は見えなくなっていた。
お姉さんは一路駅前へと向かう。
問:妹が向かったのはどこか?
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