ブレスド・ソウル

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あたりはすっかり夜の帳に包まれていた。静けさの中、不気味な鳥の声が森の方から聞こえる。 急に入口の方から、カチャリと音がした。鍵がかかっているはずの扉が、ゆっくりと開く。そして、小さな人影が、足音もたてずに、ゆっくりとベッドに忍び寄る。 窓からの月明かりに、女が照らされる。紅蓮のローブを身にまとった女、それは昨日、山道にいた若い女だ。しかし、一つだけ、明らかにおかしい点があった。それは、女に尻尾があるのだ。ローブの下から出た尻尾は、女自身の背丈よりも長く、先には太い針が付いている。 女はベッドの前まで来ると、不気味な笑みを浮かべる。そして、尻尾の先の針が、旅人の心臓に一直線に飛んでいく。 心臓に刺さる直前、旅人はさっと体を避けた。そして、ベッドから飛び降り、女の方に体を向ける。 「気付いていたのね」 女は冷たい口調で言った。旅人は黙って女をにらみつける。呼吸が少しだけ荒くなっていた。 「うまく避けたとしても同じこと、あなたは逃げることなんてできない。あなたは死ぬ運命なのよ」 女は一歩、二歩と近づいてくる。旅人は固唾を飲み込んだ。 「あなた、私の姿を見ても冷静ね。大体の人は慌てふためくんだけどね。そんな勇敢なあなたに免じて、死ぬ前に最後の言葉を聞いてあげるわ」 女がにたりと不敵な笑みを見せた。 「なぜ、あなたはそんな姿に?」 旅人が、か細い声で言う。 しばらく沈黙が続いたが、女は「そんなこと聞きたいの?」と首をひねる。 「まあ、いいわ。ちょうど良い暇つぶしね。お望み通り、私のことを話してあげる」 その瞬間、女の顔が無表情になる。 「私はカースド・ソウル、呪われた魂を宿して産まれたの。この世に生を受けて、私を待っていたものは、終わることのない地獄だったの」
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