ブレスド・ソウル

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女が淡々と、自分の過去を語り出した。 女は産まれた時から尻尾があった。この国で、何十年に一人の確率で産まれる「蠍の呪い」によるものだった。母親はその娘の姿を忌み嫌い、町の裏通りに捨てた。それを拾ったのは、あの商人だった。 彼は牢屋で女を育てた。小さな窓があるだけの、殺風景な牢屋だ。女は何の自由も与えられず、ただご飯を食べ、寝るだけの日々であった。唯一の楽しみは、窓から見える美しい山々を見つめることだけだった。 女が大きくなったところで、商人はあることを始めた。それは、女と猛獣を戦わせることだ。商人は仕事柄、様々な動物を集めることができた。初めは小さな獣から、やがては人間よりもはるかに大きい獣と戦わせた。 女は、文字通り命がけだった。気を抜けば、すぐに猛獣に咬み殺される。商人はというと、酒を飲みながら、女が戦う姿を見ていた。時には、友人も呼び、一緒に歓声をあげて、戦う姿を見ていたのだ。 女は、自分を見せ物みたいに扱う人間達が憎く、殺してやりたいと思った。しかし、頑丈な牢に閉じ込められた自分に、そんなことは叶わなかった。ただ、目の前に現れる猛獣と戦い、見せ物になることしかなかったのだ。 ある日、女よりも二倍の大きさはある熊と戦っていた時のことだ。襲ってくる攻撃を避けていると、熊は牢屋の扉に体当たりした。それにより、錠が少し緩んでいるように見えた。女は、熊の首を一突きして殺した後、牢の扉の前に立つ。尻尾の針で錠を刺すと、それは呆気なく壊れた。 扉から出てきた女を見て、見物していた人間達は恐怖の表情を浮かべていた。女は、そこにいた人間達の心臓を突き刺し、殺していった。生き物を殺すことは女にとって造作もないことだった。 人間が流す血を見て、女は興奮した。その血をすすると、体が高揚するのを感じた。人生で味わったことのない快感が、全身を駆け巡っていた。これほど人間の血は美味しいのかと、感動した。三人の血を吸い尽くしたところで、女は満足した。残りは、商人だけとなっていた。部屋の隅で腰を抜かし、悲鳴をあげている。 女が近づくと、商人は奇声をあげた。女は、心が冷めるのを感じた。三人分の血を吸い、渇きは満たされていた。そして、あれだけ憎んだはずの商人が、醜い姿を目の前にさらしているのを見て、殺意も引っ込んでしまった。 女は、商人を殺さない代わりに、ある条件を出した。それは、自分を山に住まわせること。そして、自分の元に定期的に人間を送ること。その二つだ。商人はその条件を飲んだ。こうやって女は山で暮らすことになり、商人が山に送ってくる人間の血を吸って、生きていた。
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