プロローグ

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プロローグ

「君、相談室に来る気はない?」  帰り道、偶然一緒になった幼馴染を誘う。生徒会長の真理愛は彼を欲しがった。勉強もスポーツも容姿もクラス内のカーストも、全ての頂点を持つ彼女が持ち得ないものを、彼は持っている。 「いや、特に悩みなどないが」  少年は目を閉じて歩く。少年にとって、この幼馴染は眩しすぎるのだ。  だからこそ、ワザとピントを外した返しをした。生徒会長が隣にいるだけで、彼の息は詰まる。  生徒会長と少年の関係は小学校時代まで遡ることができるが、一部空白がある。生徒会長は中高一貫校へ、少年は別の中学校へと進学していたのだ。  高校でまた同じ学校生活を送ることとなったものの、少年は中学生活でひどくやさぐれてしまっていた。 「君に悩みなんてないことは分かっているわ。私と一緒に相談室の運営をしてくれないか、と依頼しているのよ」 「尚更行かないだろ。オレにできてお前にできないことが幾つあるって言うんだよ。そもそもオレは生徒会の人間じゃねえ。他に居るだろ」 「他に居ないから、君に言っているのよ? 私のように何でもできる人間の他に、君を……特殊なスキルを持つ君が欲しいの。それとも、私とは……もう組みたくないのかしら?」  ああ、と口に出す前に仕舞った。組みたいに決まっている。  だが、地面から掘り出されたミミズが長くは生きられないように、学園全員から注目され期待される生徒会長の隣に居たら、ひどく居心地が悪いだろう。  少年は特にそれを知っている。 「言い方を変えましょう」  生徒会長の爪先が少年の方を向くと、すっかり赤くなった紅葉が1つだけ二人の間を抜けていった。その刹那、生徒会長は少年の胸ぐらをつかんで小さな声で言った。 「いいから手伝いなさい。君を必要としているのは私だけじゃない。相談に来た生徒が君を必要としているわ」 「オレに何の得がある?」 「私と過ごす時間に得が無いとは言わせないわ」 「滅茶苦茶だな。それに強引すぎる。だが……」  その眼差しが、断る理由を全て退けた。
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