二次試験トーナメント一回戦・ヒイロ

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二次試験トーナメント一回戦・ヒイロ

 ヒイロの相手は魔法に特化しているエルフ族の青年だった。背丈はヒイロと同じくらいだったが、その背丈を越える大きな杖を持っていた。  ヒイロもまた審判に杖などの武器はないのかと問われ、無くても大丈夫と笑顔で返していた。だが、その姿に相手となるエルフ族は、エルフ族特有な端正な顔立ちに似合わず、明らかに怒っていた。  エルフ族はノミルの説明通り、プライドが強く種族主義であり、こと魔法のことに関しては特にプライドを持っていた。そのため、後衛職のトーナメントで素手のヒイロを見て、魔法使いなのはすぐに理解できるが、魔法媒体でもある杖などを使わない時点で本気を出していないと感じたのだ。 「貴様……この私を舐めているのか?」  緊張感が全くないヒイロは、後ろを向きながら両手でノミルとミコルに手を振っており、エルフ族の言葉に首を傾げながら答える。 「う~ん、舐めてるわけではないんだけど……師匠が出てくると……楽しめないと言うか、うるさいと言うか……」 (なんじゃと……今、うるさいと言ったか?) 「えっ、いや……あの……うる…トラ……さい…コウかわいいって言いました!はい!」 (そうかそうか、そうだろう。ワシはウルトラ最高に可愛いからのう) 「ふぅ……師匠は呼ばなくても出てくるからなぁ……」 「私の言葉を無視して独り言とは……これだから劣等種は……」  審判となる試験官が2人の間に入り、片手を上げる。 「名前を名乗りなさい、2人が名乗ったら試合を始めます」 「ヒイロです!」 「ヘレグエヒ」 「それでは、試合……始め!」  審判が後方に下がるとヒイロは素早く氷の初級魔法を展開する。 「氷魔法 アイシクルバレット!」 「魔法媒体もないくせに早い!?くっ……バカにするなぁ劣等種!!……氷魔法 アイシクルウォール」  ヘレグエヒの前方に大きな氷柱がいくつも現れ、ヒイロのアイシクルバレットを防ぐ。 「所詮は劣等種!初級魔法で精一杯だろう、この私が貴様ら劣等種が見たこともない中級を越える上級魔法を見せてやろう!……んっ……どこだ!?」 「どうでもいいんだけど、ちょっと油断しすぎじゃないかな?……雷魔法 ライトニングボルト」  ヒイロは、ヘレグエヒが《アイシクルウォール》を放った瞬間にすでに死角からヘレグエヒの後方に回り込んでいたのだ。当然、ヘレグエヒは自分が唱えた《アイシクルウォール》によって、ヒイロを見失い、気付いた時にはヒイロの雷の初級魔法 《ライトニングボルト》の直撃を食らっていた。 「しょ……勝者、ヒイロ!」  直撃を食らったヘレグエヒはいくら魔法に特化し、魔法耐性も他の種族より高いエルフ族であり、また初級魔法であっても、無防備かつ至近距離での直撃では、気絶までは行かなくても全身が痺れ、数分は動けない状態になる。 「まっ、待って……くれ……審判……私はまだ……」  審判はヘレグエヒの言葉を遮り、医療班を呼ぶ。当たり前だった、一対一の決闘もしくは、ソロの魔獣狩りにおいて、数分間の麻痺は致命的である。ヒイロは、何事もないようにヴァンジャンスの方に駆け寄り、2人で初戦突破をノミル達に報告する。  ヒイロとヴァンジャンスの2人は当たり前のようにしているが、周りでは明らかに2人を意識する者達が現れていた。 (非力な劣等種が、身体能力に長けている獣人族の熊人種に腕力で勝った……?身体強化の類いか……) (エルフ族のヤツは油断していたが、劣等種が2属性の魔法を放つだと……)  そんな周りの注目に全く気付かない2人とミコルは単純に大喜びしていた! 「すごーい!最近、運動頑張ってるなーって思ってたけど、こんなに2人とも強かったんだぁ!お姉さんはとっても心配だったんだぞぉ!」 「運動って……ミコ姉……。まぁでも、まだまだこれぐらいなら余裕だよな、ヴァン!」 「あぁ。それよりコイツらバカなのか?なんでこんなおしゃべりしながら戦うんだ?ヒイロのアホじゃあるまいし……」 「おい!」  すかさずヒイロが、ツッコミのごとく、ヴァンジャンスの腹をパンチするが、ヴァンジャンスの鍛えられた腹筋に、逆にヒイロの拳が悲鳴を上げていた。  その様子に笑いながら見ていたノミルがヴァンジャンスの疑問に答える。 「まぁ、仕方ないさ。種族でも優秀な者達が集まったとしても、まだ実践経験もほとんどない子ども達だからな。それに比べ、お前たち2人は幼い頃に強者による本物の殺し合いも見たことあるし、それに本物の魔獣に殺されかけたこともあるんだろうからな」  後半は少し怒り気味にヴァンジャンスを見るノミルに対し、ヒイロはトイレアピールをしながらその場から逃げようとする。そして、もちろんその言葉にミコルが怒り出し、ヴァンジャンスはヒイロの方を睨む。 「ヒイロ……お前……吐いたな……」 「ちょっと!?殺されかけた?魔獣に?まさかイアールンヴィズの森!?ヒイロ来なさい!ヴァンもそこに座りなさい!!いつ!?なんで!?どうして!?」  結局、ヒイロとヴァンジャンスは次の試合までその場で正座させられ、ミコルに永遠に説教をされたのだった。
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